人的資本経営の最前線を紐解く連続オンラインイベント「人材経営ラボ」。第6回は、Unipos株式会社 代表取締役会長 田中 弦氏をゲストに迎え、「伸びる会社に共通する事業戦略×組織戦略 ~5,000社以上の開示データを踏まえたインサイトとは~」をテーマにお話を伺いました。
本記事では動画の内容を一部抜粋し、要約してご紹介します。
「人」が競争力を左右する時代へ|人的資本経営が注目される背景
ー 田中さんが「人的資本経営」に注目するようになった背景を教えてください。
経営戦略の中で人事戦略の比重がこれほど高まった時代は、これまでありませんでした。高度経済成長期のように人口が増えていた時代は、マーケットも自然に拡大し、「決められたことを着実にこなす」ことで成果が出ていました。しかし現在は、少子高齢化とスキルの多様化が進み、こうしたやり方が通用しにくくなっています。
さらに、ChatGPTのようなツールの登場により、誰もがスキルやナレッジを迅速に習得できる環境が整ってきました。だからこそ、単なる経験や年功序列ではなく、スキルをアップデートし続けられる人材こそが、企業の競争力を決定づける時代に入っているのです。
人的資本経営とは 「人」をお金を出せば手に入る“資源”として捉えるのではなく、適切に“投資”を行えば成長し、放置すれば劣化してしまう“資本”として捉える考え方 |

ー 地方銀行でも人的資本への投資が進んでいるとお聞きしました。
そうですね。ある地方銀行では、若手行員向けに100種類近い社内資格制度を整備しています。これまでのように「融資業務だけをしていれば良い」という時代は終わり、事業承継や地域活性といった新しい役割を担うためには、新たなスキル習得が求められているんです。
これは単なるスキル研修にとどまらず、変化する事業環境に対応するために「人への投資」を積極的に進めている証拠であり、人的資本経営の体現ともいえる取り組みです。企業規模や地域性にかかわらず、「人」に投資する発想が現代では欠かせません。
人的資本経営の始め方
ー 実際に人的資本経営を始める際には、どのようなステップから着手すると良いのでしょうか?
スタート地点は、企業が目指す「理想の姿」と「現在の状態」のギャップを正確に認識することです。この差が「課題」であり、これを埋めるために人的資本の力をどう活かすかを考えていく必要があります。
かつては「人・モノ・カネ」でなんとかできた時代もありましたが、今は“人”の力が企業成長のカギを握っています。だからこそ、経営戦略と人事戦略をしっかりと連動させ、課題解決に取り組む必要があるのです。

実例から学ぶ人的資本経営のポイント
ー すでに人的資本経営に実際に取り組んで、成果を挙げている企業の事例はありますか?
人的資本経営の実例として、特に印象的だったのが森永製菓の取り組みです。成長が見込まれる「機能性食品」分野に注力し、2020年から2023年にかけて1.75倍の人員増を実現しています。
単に社員数を増やしたり、離職率を下げたりするのではなく、「成長事業に人をどう投下するか」という視点から、経営戦略と人事戦略の連動を示している好例です。こうした開示情報は投資家だけでなく、求職者にとっても強力なメッセージになります。
「この会社は自分のやりたい分野に力を入れている」と感じられれば、応募のモチベーションにも直結しますよね。人的資本経営というと、「上場企業が機関投資家に説明するためのもの」というイメージを持たれがちですが、私はむしろ社員や求職者との重要なコミュニケーションの一つだと思っています。
たまたま上場しているから統合報告書や有価証券報告書に情報が載っているだけで、実際には中小企業を含め、あらゆる企業に必要な視点だと思うんです。
ー 人的資本情報を開示する際、注意すべき点はありますか?
そうですね。まず「開示」に関してですが、上場企業であれば、これはもはや“やるべきこと”です。ただし、すべての経営戦略を詳細に明かす必要はありません。一部の重要な情報を選び、伝えるだけでも十分です。
一方で、私は「課題を提示するタイプのコミュニケーション」は、社外だけでなく社内に対しても効果的だと考えています。もし経営側が「大学で学んだとおりに働いてくれればいい」「これまでのやり方を踏襲してくれれば問題ない」といった姿勢だと、社員は「自分の介在価値がない」と感じてしまいますよね。
しかし逆に、「いま、私達はこうした課題に直面している。これは裏を返せば伸びしろでもある。だからこそ、あなたの知見とスキルが必要なんだ」と伝えれば、どうでしょうか。社員は「この会社で自分の力が活かせる」と実感できるようになりますよね。つまり、“介在価値”が高まるんです。
これからの時代に必要なのは、より統合的なコミュニケーションです。人的資本の開示は、上場企業だけが担うものではありません。企業規模に関係なく、少なくとも社内に向けて「あなたの力を必要としている」というメッセージをきちんと伝えられているかどうか。それが問われているのだと思います。
最後に
ー 経営層や人的資本経営を推進したい現場の社員に向けて、メッセージをお願いします。
私は今、人の可能性がこれまでになく広がっている時代にいると感じています。だからこそ、社員一人ひとりが「この会社なら自分の介在価値を発揮できそうだ」と感じられる環境を整えることが、組織にとって非常に重要な役割だと考えます。
「カリスマ経営者が決めた方針に従えばいい」というトップダウンの考え方だけでは、変化の激しい今の時代を乗り越えることはできません。むしろ、「自分はこの会社にどんな貢献ができるか」「どんなスキルを身につければ、もっと価値を発揮できるか」を自ら考え、試行錯誤しながら成長できる環境こそが、これからの“日本的な経営”の鍵になると考えています。
経営層の皆さんには、社員をただ「信じる」だけでなく、「どうすれば社員の介在価値を引き出し、高められるか」を意識したコミュニケーションを取っていただきたいと思っています。
現場の知恵が詰まった対談の全貌を、動画でご覧ください
本記事では、人材経営ラボ第6回「Unipos 田中氏が斬る 伸びる会社に共通する事業戦略×組織戦略 ~5,000社以上の開示データを踏まえたインサイトとは~」をダイジェストでお届けしました。
フルバージョンの動画では、以下のようなテーマについて、より具体的かつ実践的な内容をお聞きいただけます。
- 複数の企業による人的資本経営の実例
- 求職者に向けた人的資本情報の効果的な開示方法
- 経営層を巻き込むための説得アプローチ
ぜひ、以下よりフルバージョンをご視聴ください。
