優秀な人材を確保し、生産性を高めるためには人事施策の強化が重要です。しかし、人事施策は、やみくもに実施しても十分な効果は期待できません。施策の効果を数値として測定・評価し、改善を繰り返すことで、より効果の高い人事施策を実現できます。
本記事では、社員のエンゲージメントを高める具体的な施策と、効果を測定・評価する方法について詳しく解説します。
人事施策に取り組む担当者様は、ぜひ最後までお読みになり、参考にしてください。

人事施策とは
人事施策とは、人事部門がおこなう採用・管理・育成といった人事業務の施策全般を指します。
人材管理や労働環境の改善を通じて社員の満足度を高め、定着率や生産性の向上を図ります。
人事施策強化のメリット
人事施策を強化することで得られる主なメリットは以下の3点です。
- 離職率・休職率が低下する
- 生産性が向上する
- 企業の持続的発展につながる
各要素について詳しく解説します。
離職率・休職率が低下する
人事施策を強化する最大のメリットは、離職率・休職率の低減です。人事施策に力を入れることで、社員にとって働きやすい環境が整います。
コミュニケーション不足による孤立化や過重労働といった、心身の不調につながる問題が解消されるため、離職・休職をする社員を減らす効果が期待できます。
また「会社は私たちのために良い環境を整えてくれる」と感じることで、社員の企業に対するエンゲージメントが向上することも、離職率を下げる要因となるでしょう。
生産性が向上する
人事施策強化により社員のモチベーションが上がると、生産性の向上も期待できます。
また、社員の適性を正確に把握することも、人事施策の重要な要素です。社員の性格やスキル、希望についての理解を深め、配属を最適化することで、さらなる生産性向上を図れます。
企業の持続的発展につながる
人事施策の強化は企業の持続的発展につながります。
たとえ資金面で余裕があっても、離職率が低いと人的リソースの確保やノウハウの蓄積が困難です。採用と教育にばかりコストがかかり、企業としての成長が望めない場合があります。
人事施策強化のポイント
人事施策にはさまざまな手法がありますが、すべてが自社に適しているとは限りません。まずは自社の現状を把握し、課題と解決策を整理する必要があります。
また、施策によってどのような成果が出たかを、明確な指標で評価することも欠かせません。人事施策強化に取り組む際の手順は以下のとおりです。
- 施策の目的を明確にする
- 効果測定の指標を設定する
- 効果測定を施策改善に反映させる
それぞれのポイントを詳しく解説します。
施策の目的を明確にする
まずは自社の現状を把握し、課題を整理して施策の目的を明確にします。目的をしっかりと定めることで、ブレることなく効率的に目標達成を目指せます。
- 誰をターゲットにするのか
- ターゲットにどのような状態になってほしいのか
- どのような状態になればゴールなのか
上記のような点を意識しながら、明確な目的設定を行いましょう。
効果測定の指標を設定する
目標の達成度を測るためには、効果測定が重要です。重要業績評価指標(KPI)を設定し、その分析のために収集すべきデータや収集法を決めましょう。
施策前後の変化を数値で可視化することで、改善の有無や効果の程度を把握できます。また、得られた結果により、施策の改善や説得力のあるレポーティングが可能となります。
効果測定を施策改善に反映させる
効果測定の結果によっては、施策の改善や取り止めを検討する必要があります。施策の計画から実行、効果測定、改善という「PDCAサイクル」を回すことで、より効果の高い人事施策が可能です。
また、会社のフェーズや組織の状態によっては、人事施策の目的自体が変わることもあり、効果測定の指標や測定法を見直す必要が出てくる可能性があります。
とくに長期的な取り組みでは、施策や効果測定が形骸化するおそれがあるため、効果測定に基づく定期的な見直しが欠かせません。
人事施策の種類と評価法
人事施策をおこなうべきフェーズは、大きく分けて以下の4つです。
- 採用
- 育成
- 評価
- 労働環境
それぞれの要素において人事施策をおこなう目的や具体的な施策、評価指標を見ていきましょう。
採用における人事施策
採用に関する人事施策を強化することで、企業が求める人材をより確実に確保しやすくなります。採用コストの削減に加え、生産性の向上やミスマッチによる早期離職を防げるなど、さまざまなメリットがあります。
採用における人事施策の具体例
採用フェーズにおける人事施策の主軸は「採用法の見直し」にあります。採用ターゲットや手法、プロセスを改善することで、人材確保と採用コストの削減を図りましょう。
採用ターゲットの見直し
自社にフィットする人物像を明確にし、最適な採用ターゲットを定めます。スキルセットだけではなく、企業風土に合った人材であることも重視しましょう。たとえ優秀な人材でも、企業との親和性が悪いと実力を発揮できないためです。
あわせて、アプローチ層を広げることも重要です。中途採用者や外国人など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材に募集の幅を広げることで、新たなアイディアの創出につながり、企業が活性化します。
採用手法の見直し
採用ターゲットが定まったら、それにあわせて採用手法も検討しましょう。一般的な一括採用は、新卒社員を同時に、大量に採用できます。将来の経営層やリーダーを担う人材を一から育成したい場合に最適な手法です。
一方、特定のスキルを有する即戦力の人材が必要な場合は、直接アプローチができるダイレクトリクルーティングやヘッドハンティングが有効です。ターゲットに適した採用手法を取り入れることで、優秀な人材の確保と採用コストの削減が見込めます。
採用プロセスの最適化
採用プロセスの最適化も、重要な人事施策の一つです。採用プロセスが多すぎたり、進行が遅かったりすると、中途離脱者が増え、人材の確保が難しくなる場合があります。
1回目の面接はオンラインでおこなう、選考基準を明確にしてすぐに結果を通知するなど、採用プロセスの効率化を図りましょう。スムーズな選考は中途離脱者を減らすだけではなく、候補者のエンゲージメント獲得にも寄与します。
採用における人事施策の評価指標
採用における人事施策を評価する際の指標としては、以下が挙げられます。
応募者数 | 応募者の総数 |
---|---|
有効応募率 | 応募者数に対し、自社が求める人材が占める割合 |
内定率 | 採用にかかった外部コスト(面接会場の費用や候補者に支払った交通費など)と内部コスト(面接官や人事担当者の人件費など)の総額 |
採用コスト | 採用にかかった外部コスト(面接会場の費用や候補者に支払った交通費など)と内部コスト(面接官や人事担当者の人件費など)の総額 |
採用決定までの期間 | 採用効率の測定に役立つ |
定着率 | 3か月後、1年後など期限を区切り、定着率を評価する |
採用コストについて詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
育成における人事施策
社員の育成支援に関わる人事施策です。育成支援により必要なスキルやビジネスマナーを習得させることで、生産性の向上や顧客からの信頼獲得につながります。
また、個々の社員のキャリアデザインをサポートすることも企業の役割です。
企業においてどのような役割を果たすのか、役割を果たすためにはどのようなキャリアを積めばよいのかなど、目指すべき方向性を明確化することで、社員は目標達成に向けて努力できます。効率的なスキルアップに加え、モチベーションの向上も期待できます。
育成における人事施策の具体例
育成における人事施策の主軸は「社員の成長支援」です。社員のキャリアパスを設計し、キャリア育成にあわせて適切な教育機会を提供することで、社員が主体的に学べる環境づくりを目指します。
具体的な施策は以下のとおりです。
キャリアパスの設計
明確なキャリアパスの設計により、社員の向上心や労働意欲を高めます。幹部候補であれば多くの部署を幅広く経験させる、技術者であれば同じ部署で専門的なスキルを習得させるなど、個人の適性にあわせてカスタマイズします。
また、キャリアパスは固定化するのではなく、見直すことも重要です。社会や企業を取り巻く環境や本人のライフスタイルの変化により、キャリアパスを進化させていく必要があります。
成長のサポート
キャリアパスの設計により目標が定まったら、その達成を支援する仕組みを整えましょう。具体的な施策としては、教育係やメンターの配置、研修会や定期的なトレーニングの実施が挙げられます。
社員のスキルを高めることで、企業全体の生産性が向上します。人材不足が深刻化する現代においては、適切な教育支援をおこない、社員一人ひとりの価値を高めることが重要です。
育成における人事施策の評価指標
育成における人事施策を評価する際の指標としては、以下が挙げられます。
研修受講率 | 対象者に対する研修参加者の割合 |
研修後のテストスコア | 研修前後でスキル評価のスコアがどの程度変化したか |
資格取得率 | 業務に関連する資格の取得率 |
昇進・昇格率 | 教育支援を受けた社員の昇進率 |
離職率の変化 | 教育支援前後での離職率の変化 |
従業員エンゲージメントスコア | 社員の企業に対する満足度や信頼度 |
評価における人事施策
評価制度や報酬にかかわる施策です。能力や努力に見合った評価がなされない場合、社員は企業に対して不満や不信感を抱き、離職してしまう危険性があります。
公正な評価・昇給制度を設けることで、社員のモチベーションを維持し、優秀な社員の定着を促進できます。
評価における人事施策の具体例
評価における人事施策の主軸は「評価の公平性と妥当性の実現」にあります。人事評価制度や適切な報酬体系の設定により、成果を出した社員がさらに意欲を持って業務に携われるようにしましょう。
人事評価制度の見直し
まずおこなうべきことは、人事評価制度の見直しです。
社員の業績や意欲、会社への貢献度を評価し、昇給・昇進に反映させます。売上や成約件数などの定量化できる要素に加え、企画力やコミュニケーション能力、業務プロセスや仕事に対する姿勢といった数値化できないビジネススキルも評価の対象となります。
しかし、そうしたビジネススキルは評価が難しく、評価者によってばらつきが生じる点が問題です。結果として不平等が生じ、社員が不満を抱く要因になりかねません。
社員の納得感を得るためには、妥当性と公平性の高い人事評価制度を整備するとともに、人事評価マニュアルの作成や評価者への訓練を実施することが必要です。
公平な給与制度の設計
人事評価制度に見合った公平な給与制度の設計も重要な人事施策です。「能力」「職務」「役割」という3要素に基づいて、基本給を設定します。
しかし、それだけでは成果を出した社員を正当に評価できません。仕事への貢献度にあわせて昇給額にメリハリをつけることも重要です。
能力や成果に応じた昇給制度を設けることで、社員は目標達成に向けて努力するようになります。結果として、モチベーションの向上やスキルアップにつながるでしょう。
評価における人事施策の評価指標
評価における人事施策を評価する際の指標としては、以下が挙げられます。
昇給率の公平性 | 年齢・性別・部門ごとの昇給率のバランス |
評価結果と業績の相関 | 高評価者が実際に業績における成果を上げられているかを評価する |
離職率の変化 | 評価制度見直し前後での離職率の変化 |
内部昇進率 | 組織内で従業員が昇進する割合 |
従業員エンゲージメントスコア | 社員の評価に対する満足度・納得度 |
労働環境における人事施策
社員が安心して働ける良好な労働環境の構築に関わる施策です。社員一人ひとりがプライベートな時間を大切にしつつ、生き生きと働ける環境を整えることで、心身の不調やライフスタイルの変化による離職・休職を防止する効果が期待できます。
労働環境における人事施策の具体例
労働環境における人事施策で目指すべきことは、社員が心身ともに大きな負担を感じずに、業務を継続できる環境づくりです。以下のような施策をおこなうと、社員のワークライフバランスの改善や心身の健康維持につながります。
柔軟な働き方の導入
フレックスタイムやリモートワークなど、働き方に柔軟性を持たせ、社員のワークライフバランスの改善を図れます。
プライベートの時間を十分に取れることで社員の満足度が増し、エンゲージメントの向上が期待できます。
休暇制度や時短勤務の導入
休暇制度や時短勤務の導入により、ライフスタイルが変化しても仕事を続けられるように支援することも、重要な人事施策の一つです。
労働意欲があるにもかかわらず、育児や介護のために離職せざるをえない社員は少なくありません。企業として家庭と仕事の両立をサポートすることで離職を防ぎ、エンゲージメントを高めましょう。
メンタルケア
社員のメンタルケアは、現代の企業にとって欠かせない義務の一つです。ストレスマネジメントやメンタルヘルスプログラムを通じて、精神に不調をきたした社員を適切にサポートすることで、定着率を高められます。
メンタルケアは場当たり的におこなうのではなく、社員のパフォーマンスを把握し、適切なタイミングと方法を見極めることが重要です。
労働環境における人事施策の評価指標
労働環境における人事施策を評価する際の指標としては、以下が挙げられます。
平均残業時間 | 施策導入前後で平均残業時間を比較する |
有給休暇取得率 | 付与日数に対する取得日数の割合 |
ストレスチェックの結果 | 厚生労働省のストレスチェックの結果を比較 |
生産性指標 | 労働時間に対する産出(売上、生産数、獲得契約数など)の割合 |
従業員エンゲージメントスコア | 社員の企業への信頼度、労働環境への満足度など |
人事施策における従業員エンゲージメント評価の重要性
いずれの人事施策においても、従業員エンゲージメントは重要な測定指標となります。人事施策は対社員の施策であり、社員にどのような影響を与えたかが、もっとも重視すべき要素となるためです。
しかし、エンゲージメントは心理的な要素であることから、数値化は困難です。エンゲージメントを評価するためには、従業員アンケートやエンゲージメント測定ツールを活用し、エンゲージメントスコアを客観的に評価する必要があります。
人事施策の効果を測るには従業員エンゲージメントの可視化が必須
人事施策の強化は社員のモチベーションや心身の健康を守り、離職率の減少につながるため、積極的におこなう必要があります。
人事施策の成果を上げるためには、明確な目標とKPIの設定、それによる定量的な効果測定が欠かせません。とくに、従業員エンゲージメントは社員の幸福度に直結する重要な指標です。
しかし、心理的要素は数値化が難しいため、客観的かつ定量的な評価を行うためにはツールの利用が必要不可欠です。
人事施策の効果を正しく評価するのに役立つエンゲージメントサーベイについて、詳しくはこちらをご覧ください。
記事の後半では、すぐに実践できる施策もまとめています。 「社員のやる気を引き出したい」「組織の活性化を目指したい」と考える経営者や人事担当の方は、ぜひ最後までご覧ください。
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