「ダニング=クルーガー効果」は、多かれ少なかれ成長過程で生じる認知バイアスです。
本記事では、このダニング=クルーガー効果について、概要や影響、対象方法などを詳細に解説していきます。
ダニング=クルーガー効果とは
ダニング=クルーガー効果とは、「能力の低い人ほど自分の能力を過大評価する心理現象」で、心理学における認知バイアスの一種です。
由来
この名称は、コーネル大学教授のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーダニングが由来です。彼らの実験により、学業成績が悪い学生ほど自身の成績が上位であると考えている、反対に優秀な人ほど成績を低く見積もっていることが判明しました。
ダニング=クルーガー効果は学業以外にも、仕事や運動、恋愛など幅広い分野で見られます。例えば恋愛では、異性から好かれる人ほど「自分はモテない」と思っているのです。
ダニング=クルーガー効果における心理状態の曲線
下記の曲線は心理状態の変遷を表したものです。
(引用元:File:Dunning-Kruger-Effect-en.png)
「能力(Competence)」の初期段階で、全てを理解した感覚に陥り、「自信(Confidence)」が急速に高まります。
その後能力が高まるにつれ、自身の能力不足を自覚します。世界の広さを実感し自信を失う段階です。初期よりも実力がついているにも関わらず、「優秀な人ほど、自信がない」という事象が生じます(Valley of Dispair )。
そこから、徐々に自信が回復します。初期段階とは異なり、得意・不得意の分野を正確に自己評価し、成長する状態です(Way to Enlightenment)
ダニング=クルーガー効果は多かれ少なかれ、人間の成長過程で見られるものです。これを物差しにして、社員の成長度合いを見ることも肝要です。
発生原因
ダニング=クルーガー効果の発生原因はメタ認知の低さ・欠如です。メタ認知とは、自身の思考や行動を第三者視点から捉える能力です。メタ認知力が不足すると、様々な認知バイアスにとらわれやすくなります。非常に限られた狭い視野では比較対象が少ないため、少しの成功体験を得るだけで、自分が優れていると錯覚してしまうのです。
対義語
対義語はインポスター症候群です。インポスター症候群とは「何かを達成しても、自分の能力ではなくただ運が良かっただけと思いこんでしまう、異常に自己評価が低い心理状態」のことです。実力があるにも関わらず、「自分のキャリアは偽りだ」「いつか自分が詐欺師であることがバレるのではないか」と後ろめたさや不安にさいなまれるのが特徴です。インポスター症候群は有名人や高いキャリアの人に多く、一般的に男性よりも女性が陥りやすいと言われています。
ダニング=クルーガー効果の事例
ダニング=クルーガー効果による事例を紹介します。
仕事ができない人ほど偉そう
メタ認知ができないと自分の実力を客観的に判断することができません。
自分が優れていると勘違いし、他人を見下すことがあります。
いわゆる天狗になっている状態です。
知見がある人ほど政治を簡単に語らない(語れない)
政治に詳しくない人ほど「自分は政治をよく分かっている」と思い込んでいるという研究結果があります。これはSNSで顕著に見られます。自称「政治通」の本人は立派な意見を発信しているつもりですが、実際は意気揚々と無知をひけらかしているだけなのです。
投資のプロほど慎重に判断する
投資は不確実性と運に支配される要素が極めて多い世界です。初心者のなんとなくの銘柄選定で偶然にリターンが得られることもありますが、それは強力な運があったからです。
ラッキーは長く続きません。自分の力を過信せず、長年市場に立ち向かうことが必要です。
ダニング=クルーガー効果のデメリット
ダニング=クルーガー効果が強く作用してしまうと、コミュニティの人間関係や従業員の評価に支障が出ます。
自身を過大評価する
少し知識が増えただけで急激に自信が湧くことは多いです。自身を過大評価し、能力以上の業務を引き受けるケースも若手社員では多く見られます。実際の能力と認識にズレが生じている状態です。認識の矯正には、一度失敗して認識を改める、もしくは周りのアドバイスに真摯に耳を傾けることが必要です。
知識不足を自覚できない
いわゆる「無知の知」状態です。能力が低い人は、現在の知識で物足りると錯覚しているため、向上心が生まれないのです。
有能な人ほど自分の知識不足を自覚し、謙虚に勉強するためさらに成長します。しかしそうでない人ほど成長が停滞するのです。
困難への対応が難しくなる
自己評価が過剰に高いほど、壁の乗り越えが難しくなります。自身の能力を正確に認識できないため、乗り越え方がわからないのです。
逆に困難に直面したことで能力不足を実感し、改心する人もいます。
他者への評価基準がゆがむ
自己評価がずれると、他者を不当に低く評価したり、反対に高く評価してしまいます。特に、管理職が自信過剰だと、人事評価が正確になされません。年功序列、終身雇用といった企業のベテラン管理職は十分気をつけましょう。
責任を他者へ押し付ける
責任を他者へ押し付ける傾向が顕著になります。「周りが自分の足を引っ張っているせいで解決できないんだ」と他人の能力を否定するのです。責任を押し付けられた側は非常に不愉快になるでしょう。人間関係の悪化にも繋がりかねません。
ダニング=クルーガー効果の影響を受けやすい人
ダニング=クルーガー効果の影響度には個人差がありますが、影響を受けやすい人の特徴を解説します。
結果の分析を行わない人
結果の分析をしない人は、影響を強く受けやすいです。成功・失敗の要因を把握できないからです。「なんとなく上手くいった」という体験が積み重なると、自信過剰に繋がりやすいです。
他人の意見に触れる機会が少ない人
他人の意見に触れる機会が少ない人は、無意識に固定観念にとらわれ、能力を過剰に見積りやすいです。近年はリモートワークの導入により、コミュニケーションの機会が減った人もいるでしょう。視野を広げるためにも、意識的に他人の意見に触れることが肝要です。
自分の意見が一番正しいと考える人
意見に自信をもつことは悪くありませんが、度が過ぎると周囲との認識に差が生じます。相反する意見をすべて過小評価する可能性もあるので気をつけて下さい。
客観的な視点が不足している人
客観的な視点が不足すると自己分析が正確にできません。思い込みはダニング=クルーガー効果を助長します。積極的に客観的な視点を取り入れることが重要です。
上級役職に就いている人
仕事で上級役職に就いている人は、役職を根拠に「自分の能力が高い」と誤認し、下に高圧的な態度を取ってしまいます。肩書に左右されずにフラットに人を見ましょう。
短期間で成果を出した人
たしかに短期間で成果を出すには一定以上の能力が必要でしょう。しかし。周囲のサポートがあってこそ、最高のパフォーマンスを発揮できたのです。周りに感謝する気持ちを忘れないようにしましょう。
ダニング=クルーガー効果を弱める対策
ダニング=クルーガー効果を最小限に抑えるためには、下記の対策が効果的です。
フィードバックを定期的に受ける
他人からのフィードバックを定期的に受けることで、自身の客観的な分析が可能です。
自分と親しい人からのフィードバックは甘い可能性があるので、そこまで親しくない人に頼みましょう。
原因を自身に見出す
他人に責任が重たい場合でも、自分に非がなかった考えることで、ダニング=クルーガー効果を回避しやすくなります。他人の責任に重きを置いた時点で、自分に対する過剰評価が強まると考えてください。
周りのサポートを積極的に受ける
周りのサポートを積極的に受けることも、ダニング=クルーガー効果を弱めるのに有効です。サポートを受ければ、自分を助けてくれる人の存在を実感できます。サポートのありがたみを感じれば、自分の能力を過剰評価することが少なくなるでしょう。
ダニング=クルーガー効果の良い側面
ダニング=クルーガー効は必ずしもデメリットのみではありません。
根拠のない自信を持てる
メリットの一つは、根拠のない自信を持てることです。無知だからこそ果敢に挑戦できます。「必ずできる」「どうにかなる」と自分を信じることで一歩踏み出すことができるのです。
自尊心が高められる
程度にもよりますが自己評価を盛ると自尊心が高まります。
何事も自信を持って行動し、良い結果を出すことで、自己認識と実力のズレが埋まる可能性があります。
採用活動でもダニング=クルーガー効果を活用できる
新卒採用基準でコミュニケーション能力を求める企業が多いですが、「コミュニケーション能力が高い=仕事を進める能力が高い」ではありません。自身の長所を強調する人ほど、過剰評価の可能性が高くなります。
逆に自信なさげの人が、実は有能なことも少なくありません。入社希望者の評価ではダニング=クルーガー効果も考慮しましょう。
まとめ
ダニング=クルーガー効果は、自己の能力を正しく認識できない認知バイアスの一種です。能力が低い人ほど、自分を過剰評価します。ビジネスで作用することも多いため、本記事で解説した内容を参考にして頂き、上手く対処していきましょう。
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