ジレンマとは「二つの相反する事柄の間で板挟みになった状態」です。
本記事では、ジレンマの意味や使い方、ビジネスシーンで企業を悩ませるジレンマなどを中心にお伝えしていきます、
ジレンマとは何か?|意味・語源・使い方を解説
ジレンマの意味や使い方は下記です。
ジレンマの意味|板挟みの状態
ジレンマの意味は「二つの相反する事柄の間で板挟みになった状態、且つどちらを選んでも不利益を被りかねない状態のこと」です。論理学では三段論法の意味も持ちます。
参考:ジレンマとは-コトバンク
語源はラテン語の「dilemma」です。二つを表す「di」、仮説や前提を表す「lemma」を組み合わせた言葉です。ジレンマは「心理的葛藤」や「迷い」という意味も持ちます。
二つの選択肢にどちらもメリットとデメリットがあり、決断に苦しむ状況はありますよね。
例)年収の低い現在の勤め先で楽に働き続けるか、待遇の良いところに転職し仕事漬けになるか
→仕事のしやすさをとるか、待遇をとるかで悩む
例)AさんとBさんから食事に誘われており、どちらかを断らなければならない
→断った片方を傷つけてしまう恐れがあるので決断できない
【引用】
心理学に「ジレンマ」という用語があるが,これは「どちらを選んでも好ましくない結果になる場合の心理的葛藤」を意味する。一般的な意味は, 間にはさまって動きがとれない板ばさみ」である。
山陽学園大学|『論理学-推論』(p.15)
類語や対義語は?
ジレンマの類語や対義語を見ていきましょう。
類語は「コンフリクト」「不和」「不協和音」「仲違い」など
- 「コンフリクト」:ジレンマは板挟みだけではなく「心理的葛藤」を意味します。そのため、葛藤・対立・衝突で考え方の不一致を表す「コンフリクト」は類語といえます。複数のものごとが同時に存在し、激しい迷いの感情によって身動きが取れない時に使われる言葉です。
- 「不和」「不協和音」「仲違い」:二つ以上のものごとに調和がなく、同意が欠如している状態を指します。
【引用】
コトバンク|コンフリクト
(意見などが)衝突すること。葛藤。また、争い。闘争。
ジレンマの対義語は「カタルシス」
完全な対義語は存在しませんが、強いて言うならカタルシスです。カタルシスは「心に残っていた気持ちが解消されること」を意味し、板挟みや葛藤から解放された状態を表します。
【引用】
コトバンク|カタルシス
日ごろ心に鬱積(うっせき)していたそれらの感情を放出させ、心を軽快にすること。浄化。
有名な4つのジレンマ
ビジネスパーソンとして押さえておくべき有名な4つのジレンマがあります。
マーケティングや人間関係、経営における有名な考え方なのでしっかりと理解しておきましょう。
囚人のジレンマ
囚人のジレンマとは、ゲーム理論の基本的な概念のひとつです。
囚人のジレンマは「個人にとって合理的で魅力的な選択(戦略)が、必ずしも全体でプラスに働くとは限らない」「お互い協力する方が協力しないよりも良いと分かっていても、非協力者が利益を得る状況では、互いに協力しなくなる」ということを意味しています。
囚人のジレンマ|証明した思考実験
とある犯罪の容疑者としてAとBの2人が捕まっており、2人を別々に尋問します。AとBにはそれぞれ「自白」「黙秘」という選択肢があり、懲役年数は下記のように決まっています。
容疑者B:黙秘 | 容疑者B:自白 | |
容疑者A:黙秘 | A:懲役1年 B:懲役1年 | A:懲役8年 B:懲役3ヶ月 |
容疑者A:自白 | A:懲役3ヶ月 B:懲役8年 | A:懲役5年 B:懲役5年 |
2人の容疑者が得をするのはお互いに黙秘した場合です。
しかし、2人の容疑者は自分の利益だけを追求する場合、互いに自白という選択肢を取ってしまいます。これが囚人のジレンマです。
囚人のジレンマ|戦略は「裏切り」か「協調」
囚人のジレンマにおいて、双方がとれる戦略は「裏切り(=自白)」と「協調(=黙秘)」のどちらか一つです。
そして、全体利益の最大化が目的の戦略(選択)をパレート最適、個々の自己利益の最大化が目的の戦略(選択)をナッシュ均衡と呼びます。
この場合、「AとB両者とも黙秘」がパレート最適、「AとB両者とも自白」がナッシュ均衡です。
囚人のジレンマ|短期と長期で戦略が異なる
1度だけの選択(短期)と繰り返し選択する場合(長期)では戦略が異なります。
短期においては、情報不足のため裏切り(=自白)が合理的です。駆け引きもできないため「自分にとって有益な選択か」が判断基準になります。
長期では、「お互いにとって有益な選択か」が判断基準となり、黙秘(=協調)が合理的な選択です。
また、長期において有効な戦略に「しっぺ返し戦略」があります。「しっぺ返し戦略」とは相手の選択を次回の自分の選択にする戦略です。つまり「裏切られたら次は自分が裏切る、協調されたら次は自分も協調する」というものです。
参考:聖人の調和と囚人のジレンマ―利他性を考慮したゲーム理論分析―
ヤマアラシのジレンマ
ヤマアラシのジレンマは「人と人とが適切な心理的距離を探ろうとする葛藤」を意味しています。
由来は寓話
ヤマアラシのジレンマは、ドイツの哲学者であるアルトゥール・ショーペンハウアーの寓話(下記)が元になっています。
“ヤマアラシが寒い冬に、身を寄せ合うことで生まれる暖かさと互いのトゲの痛みとの間で葛藤し、寄り添う、離れるを繰り返した結果、適切な距離を見出した。”
そして、この寓話を聞いた精神学者のフロイトは、人間関係における心理的距離の葛藤を「ヤマアラシのジレンマ」と名付けました。
【引用】
青年期における対人的葛藤のあり方と自己愛傾向との関連
山アラシが寒い冬に、身を寄せ合うことで生まれる暖かさと互いの棘の痛みとの間で葛藤し、寄り添う、離れるを繰り返した結果ほどほどの距離を見出した。
ヤマアラシのジレンマ|適切な距離を取ることの難しさを表現
人間関係における「個としての自立」と「社会の他社との共存」について適切な距離を取ることの難しさをうまく表現しています。どんなに仲良くても深入りは嫌ですし、一方で離れすぎて孤独でも寂しく感じるのです。
参考:成人期女性の友人関係におけるヤマアラシ・ジレンマの特徴
イノベーションのジレンマ
大企業であってもベンチャー企業に負けることがある理由を明らかにした企業理論です。
例えば技術的に優秀な大企業であっても、後発のベンチャー企業にシェアを奪われていきます。ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・M・クリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ』で証明されました。
イノベーションのジレンマが起こる3つの理由
ジレンマに陥る理由は3つあります。
- 既存顧客の声を聞きすぎて破壊的な技術を見過ごす
- 自社が持つ技術の向上ばかりに注力する
- 新規市場を過小評価し参入を見送る
①既存顧客の声を聞きすぎて破壊的な技術を見過ごす
時代によって市場が求めるニーズは変化していきます。しかし、既存顧客の声を聞きすぎると、革新的で破壊的な技術(破壊的イノベーション)に気付けません。
②自社技術の向上ばかりに注力する
自社技術の向上に注力した結果、市場のニーズを上回ることがあります。顧客が求めない製品を開発しても、投資だけが膨らみ売上につながりません。
③新規市場を過小評価し参入を見送る
市場規模が小さい、利益率が低いという理由で新規市場に参入しないこともあるでしょう。しかし、参入のタイミングを逃すと、シェアを奪われ自社が参入できないという結果に陥ります。
【引用】
西日本新聞|「イノベーションのジレンマ」とは?
クリステンセンは、3つの理由を挙げている。(中略)参入のタイミングを見逃してしまうという点である。
イノベーションのジレンマを回避するには
大企業ほど陥りやすいジレンマですが、「既存事業と新規事業を同時に推進すること」で回避できます。そのためには時代と顧客ニーズの変化を見直すことが大切です。
例えば「電気自動車のニーズが高まっている」「SDGsへの関心が強くなっている」など、時代と顧客ニーズの変化を敏感に察知し、自社経営に照らし合わせれば、破壊的イノベーションや市場参入を見逃さずにすむでしょう。
【引用】
NIKKEI STYLE|日本企業必見!「イノベーションのジレンマ」解決法
大規模な成熟事業と、冒険的な新規事業を、同じ企業の中で同時に推進する経営方法
社会的ジレンマ
社会的ジレンマとは「個人が協力的か利己的かを選択できる場面で、個人が合理的な選択をすれば、社会にとって非合理な結果となる」ことを意味します。
社会的ジレンマの例
私たちは普段の生活で、多くの社会的ジレンマに直面しています。
税金
お金がかかるため、国民にとっては「納めない」が合理的な選択になります。しかし、社会全体で考えると、未納では国の財政は成り立たず、国民が公共サービスを享受できないという不都合な結果になります。
環境問題
一人ひとりの減量努力は、国の財政面にも環境面にも優しいです。しかしその変化は実感しにくく、加えてごみの分別や減量は手間がかかるため、継続できない可能性も高いです。
【引用】
環境問題と社会的ジレンマ
一人ひとりが自分にとって望ましい行動をとると、その行動自体にはほとんど問題がなくても、そのような行動が集まったときには社会的にも個人的にも望ましくない結果が生じる
社会的ジレンマの解決策
社会的ジレンマの解決策は、社会の仕組みと個人の意識を変えることです。
例えば、家電リサイクル法、自動車リサイクル法などを改正し、社会の仕組みを変えれば、分別・減量のみならず、ごみそのものを生まない行動にもつながります。また、ごみの分別・減量の大切さを啓蒙すれば、将来的にCO2や大気汚染が及ぼす影響が認識され、個人の意識が変わっていくのです。
企業の人材育成におけるジレンマの具体例と解決法
人材育成におけるジレンマの具体例と解決法を説明します。
1.人材育成が後回しになる
企業や組織のマネージャー陣は、人材育成の重要性を理解しています。しかし、緊急度の高い課題やトラブル解決が優先され、育成が後回しになり、将来の幹部候補が育ちません。解決には、育成効果の見える化やマネージャー陣の負担軽減が有効です。タレントマネジメントや業務改革によって、育成に十分な時間を割ける体制をつくりましょう。
2.幹部候補者の早期選抜に踏み切れない
幹部候補者を早期に選抜すると、残りの社員のモチベーション低下や人材流出(転職等)が懸念されるため、横並びで選抜せざるを得ないというジレンマです。
その結果、全体に広く薄く育成資源を配分することになり、対象者を絞った十分な育成ができません。
このジレンマには幹部候補の選抜プロセスの見直しや、選抜から漏れた社員への成長機会の提供が有効です。自社における稼働年数(休職期間除く)で候補者を見極め、社員のモチベーション低下を防ぐ成長機会を与えると良いでしょう。
3.多様な人材育成ができない
多様性の重要さを認識しつつも、多数派(同質)の支持を得る社員を幹部候補者に選抜してしまうというジレンマです。
その結果、多様な人材も、多様な人材をマネジメントする人材も育ちません。
解決策は、幹部候補の多様な人材をマイノリティ扱いせず、集団内での危機意識や競争への耐性を持たせながら育成することです。また、人事部や管理職は、無意識に幹部候補の同質性を高めない、個性的な人材を受け入れる器が求められます。
ジレンマを解消した企業の事例2つ
ジレンマを解消して、大きな躍進を遂げた企業の事例を2つご紹介します。
サントリー|ビールのシェア拡大
原料の高騰により、競合他社が缶ビールの販売価格を値上げするなか、サントリーは値上げ(協調)するか据え置き(裏切り)するか選択を迫られました。
そこでサントリーは「囚人のジレンマ」をマーケティングに活用しました。
各社が続々と値上げするなか、サントリーは値上げ(協調)せず、期間限定で据え置き(裏切り)したのです。その結果、サントリーはビール業界におけるシェア拡大を果たしました。短期的な裏切りが成功につながった事例です。
参考:DIAMOND ONLINE|缶ビールの価格据え置きでサントリーがサッポロ逆転へ
任天堂|ニンテンドースイッチで利益拡大
スマホゲームアプリは破壊的イノベーションのため、普及で家庭用ゲーム機器の売上は大きく低迷しました。それまでの「自社専用ゲーム機と専用ソフトで稼ぐ」収益モデルが通用しなくなりました。これほど高収益だった大手企業が、既存事業の構造を転換することは容易ではありません。これがイノベーションのジレンマです。
しかし、任天堂は「家族みんなで」「家でも外でも」「子どもだけでも安心して」遊べるニンテンドースイッチを販売し、全世界で爆発的なヒットを収めました。
また、USJで任天堂のキャラクターが登場するエリアができるなど、キャラクタービジネスも展開しつつあります。
任天堂は、時代の変化と顧客ニーズの変化を捉えて「イノベーションのジレンマ」を回避しました。
参考:講談社 現代ビジネス|任天堂「イノベーションのジレンマ」を打破する“捨て身”の生存戦略
まとめ
ジレンマは日常生活でもビジネスシーンでも直面することが多く、私たちの行動に大きな影響を与えます。変化が激しい世の中であり、今後もジレンマに頭を抱えることが増えることでしょう。
対処法を認識することで、できるだけ回避を目指していきましょう。
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