「過労死ライン」は、労働者が健康に働くために守らなくてはならない基準です。
過労死ラインを超えた場合、健康リスクが高まり、最悪の場合は死に至ってしまいます。そのため、企業は過労死ラインを正しく理解し、ラインを超えないように管理する必要があります。
本記事では、「過労死ライン」について、守らない場合のリスクや過労死防止のためにできる取り組みなどを紹介します。
「過労死ライン」とは
過労死ラインは、「過労死」や「過労自殺」といった健康障害リスクが高まる時間外労働時間を意味します。
言葉の意味を正確につかむために、まずは「過労死」の意味から確認してみましょう。つかむ
そもそも「過労死」とは何か
過労死とは、長時間労働などの過酷な労働が続き、それが原因で労働者が突然亡くなってしまうことです。
肉体的・精神的なストレスが原因として考えられており、具体的な死因の例は以下の通りです。
- 脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)
- 心不全
- 虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)
- 自殺(過労自殺)
この中で、過労が原因で自殺に至ったケースを特に「過労自殺」と呼びます。
参考:
過労死とは|コトバンク
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脳血管疾患とは|横浜市
労災認定の基準が過労死ライン
「過労死ライン」は、労災認定の基準となる時間外労働時間です。
労働者が健康被害を受けたり亡くなったりしたとき、労働と健康被害に因果関係があるのかどうかを判断する基準となります。
具体的には、月に80時間の時間外労働が過労死ラインとされています。月の労働日数が20日間だった場合、平均して一日4時間以上の時間外労働が発生している計算です。
法定労働時間の8時間と足すと、一日に合計12時間以上働いている場合は、過労死ラインを超えていることになります。
2021年の過労死ライン改正
過労死ラインは2021年に、20年ぶりに改正されました。主な改正ポイントは以下の4点です。
- 過労死の認定基準
- 負荷要因の見直し
- 業務と発症の関連性を判断する基準
- 過労死の対象となる疾病の追加
それぞれ詳しくみていきましょう。
改正点1:過労死の認定基準
過労死の認定基準の変更点は、次のとおりです。
【改正前】
次のいずれかに当てはまる場合、労災認定の評価対象とする
・病気の発症前の1か月間で、時間外労働が月100時間以上
・発症前の2〜6か月間で、時間外労働が月間平均80時間以上
【改正後】
改正前の時間外労働時間の条件を満たさなくても、それに近い時間外労働であれば「労働時間以外の負荷要因」を加味して労災認定の是非を評価する
改正点2:負荷要因の見直し
「労働時間以外の負荷要因」についても見直されました。以下の表の赤字部分が追加項目です。
引用:脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント|厚生労働省
改正点3:業務と発症の関連性を判断する基準
業務と発症の関連性が強いと判断される「短期間の過重業務」としては、以下の2例が示されています。
- 病気の発症直前から前日の間に過度の長時間労働が発生していた場合
- 病気の発症前から継続して1週間程度、過度の長時間労働が発生していた場合
また、「異常な出来事」の例は次のとおりです。
- 業務に関連した重大事故に関与していた場合
- 事故発生により、身体的・精神的負荷の強い救助活動や事故処理に携わった場合
- 命の危険を感じさせる事故や対人トラブルを体験した場合
- 強い身体的負荷を伴う消火活動や、人力での除雪作業、身体訓練、ランニングなどを行った場合
- 暑すぎる作業環境で水分補給ができない状態、寒すぎる環境下での作業、または温度差の高い場所へ頻繁に出入りしていた場合
改正点4:過労死の対象となる疾病の追加
改正前は不整脈による心不全症状は「心停止」に含めて取り扱われていました。しかし、心不全は心停止と異なる病状のため、新たに「重篤な心不全」というカテゴリーが対象疾病に追加されました。
参考:脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント
過労死ラインを守らないことによるリスク
過労死ラインを守らないとどのような状況になるのか、具体的に理解したい人もいらっしゃるのではないでしょうか。
労働者にとっては、健康が損なわれ、最悪の場合は過労死に至るリスクがあります。また、過労死ラインを超えた状態で従業員を働かせていた場合、企業は大きな責任に問われます。
過労死ラインを守らないことが労働者・企業にとってどのようなリスクとなるのか、詳しくみていきましょう。
労働者側のリスク:健康が損なわれる
長時間の時間外労働が続くと、以下のような不調が現れてきます。
- 自律神経の乱れと、それに伴うさまざまな不調
- 免疫力が低下し、病気にかかりやすくなる
- 睡眠の質が低下し、疲労が慢性化していく
- 終業後も緊張が抜けなくなる
症状が悪化すると、最悪の場合過労死に陥る可能性があるため、注意が必要です。
また、長時間労働は業務にも支障をきたします。業務中、以下のような症状が起こった場合は要注意です。
- 記憶力や業務効率が低下し、納期に間に合わなくなる
- メンタル面が不安定になり、人間関係が悪化する
業務中の不調は、取引先や顧客に大きな迷惑をかけてしまう可能性があります。特に医療現場で勤務していたり、自動車・バスの運転手であったりする場合は、ミスが他人を巻き込む重大事故に発展するリスクがあるため、ご注意ください。
参考:過労死ラインは何時間?働く人と会社側のリスクは? _ リーガライフラボ
企業側のリスク:会社のイメージダウンや訴訟リスク
過労死ラインを守らないと、企業にも以下のようなダメージが生じる可能性があります。
- 心身の不調な従業員によるミスや事故で損失が発生
- 訴訟リスク
- 企業イメージの悪化
過労で不調になった従業員は、業務上のミスを引き起こしかねません。ミスや事故の程度により、企業側が大きな損害を受ける可能性もあるでしょう。
また、従業員が過労死してしまった場合などは、遺族が訴訟を起こすケースもあります。企業に落ち度があることがわかれば、慰謝料の支払いなどの損害賠償を求められることになるでしょう。
過労死ラインを超えた労働時間を従業員へ課したり、訴訟が起きたりすれば、企業イメージは悪化します。就職を希望する人が減り、人材確保が困難になる場合も考えられるでしょう。
参考:過労死ラインは何時間?働く人と会社側のリスクは?|リーガライフラボ
気をつけるべき過労死の前兆
過労死ラインを超える長時間の時間外労働を続けていると、過労死に至るケースもあります。
過労死の前兆として覚えておきたい症状例は、以下の通りです。
- 顔や手足の片方だけが痺れる
- 呂律が回らない
- 目の焦点を合わせにくい
- 頭を殴られたような激しい頭痛がする
- 激しい胸の痛み
- 胸やみぞおちが圧迫されるような痛み
- 吐き気
- 呼吸困難
- 息切れ
- 睡眠障害
- 憂鬱な気分が抜けない
- イライラし続けている
- 仕事に集中できない
- 頻繁に死にたくなる
- 記憶力が低下する
- 意識が飛ぶことがある
- 1日中眠気に襲われる
上記の症状がある場合は、無理に働き続けることは避け、身体を休めるよう心がけましょう。
過労死を防ぐために企業ができること
過労死は、従業員の命にかかわるだけでなく、企業の責任を問われる問題です。ここでは、過労死を防ぐために企業ができる取り組みの例を紹介します。
企業の取り組み1:労働時間管理の徹底
まずは、過労死ラインを超えないよう、労働時間をコントロールすることが大切です。
従業員それぞれの労働時間を把握し、深夜帯の労働などで負担がかかりすぎていないか、日々チェックしましょう。
労働負荷が心配される従業員に対しては、十分な休息を取らせるなどの対処も必要です。
参考:[過労死ライン]20年ぶりの見直しで企業が今すぐ取り組むべき3つのポイント|OBC360°|【勘定奉行のOBC】
企業の取り組み2:「勤務間インターバル」を改善する
労災認定において、勤務間インターバル(勤務間の休息)の短さも、業務と不調の因果関係を示す項目のひとつに加わっています。
勤務間インターバルが11時間未満の場合、因果関係が認められる可能性が高まります。短い勤務間インターバルで稼働している従業員がいる場合は、すぐに勤務体系を見直しましょう。
参考:[過労死ライン]20年ぶりの見直しで企業が今すぐ取り組むべき3つのポイント|OBC360°|【勘定奉行のOBC】
企業の取り組み3:健康管理の指導
企業が労働時間や労働環境をコントロールすると同時に、従業員本人の健康意識を高められるよう、指導することも大切です。
特に睡眠時間を十分にとっていない従業員の場合、業務でのミスや事故、病気、過労死のリスクは高まってしまいます。
従業員の健康トラブルを防げるよう、積極的に健康管理の大切さを教育していきましょう。
参考:過労死ラインとは――2021年の大綱変更を反映して解説 – 『日本の人事部』
企業の取り組み4:ストレスチェックの実施と環境改善
2015年12月から、従業員50人以上の事業所での「ストレスチェック」が義務化されました。
ストレスチェックでは、医師や保健師が従業員のストレスレベルを検査します。
検査結果から問題が確認された場合は、労働環境の改善や労働時間の削減を検討しましょう。
参考:ストレスチェック制度の義務化とは?目的・法律・実施方法を徹底解説|労働安全衛生法|ドクタートラスト
企業の取り組み5:専門家に相談できる体制を作る
健康問題を抱えた従業員が気軽に相談できるよう、社内の風通しを良くしておくことも重要です。
可能であれば、医師や産業保険スタッフといった社外専門家に相談できる体制も整えていきましょう。
過労死を防ぐために従業員ができること
過労死を防ぐために、従業員にもできることがあります。ここでは代表例を3つ紹介します。
従業員の取り組み1:労働基準監督署への報告
過労死ラインを超える時間外労働が慢性化している職場の場合、タイムカードなどの証拠を揃えて、労働基準監督署へ報告しましょう。匿名での報告もできるので安心です。
労働基準監督署に報告することで、監督署が企業に指導することになります。ただし、証拠が揃っていないと積極的に動いてくれないため、報告する際は事前の証拠集めを心がけましょう。
参考:過労死ラインは80時間|労働時間の減らし方と労災認定の基準|労働問題弁護士ナビ
従業員の取り組み2:正規の残業代を支払ってもらう
時間外労働が多い場合、まずは時間外労働に適切な賃金が支払われているかどうか確認してみましょう。
未払いであった場合は、企業に正規の残業代を請求し、支払いを促すことがポイントです。正規の残業代が発生するとわかれば、企業側も強引な長時間労働を押しつけにくくなります。
参考:過労死ラインは80時間|労働時間の減らし方と労災認定の基準|労働問題弁護士ナビ
従業員の取り組み3:考え方を変えてみる
精神面で不調になりやすい人は、真面目で自分を責めすぎる傾向にあります。
企業は基本的に、成果を出すために長時間労働を求めます。期待されている成果さえ出せれば、それ以上長く働く必要はないはずです。
「いかに時間をかけずに成果を出し、仕事を早く終えられるか」という意識で仕事に取り組み、効率化のためにできる工夫があれば積極的に実践してみましょう。
ただし、すでに精神面の不調が確認されている場合は、無理せず身体を休めせるよう心がけてください。
参考:過労死ラインは80時間|労働時間の減らし方と労災認定の基準|労働問題弁護士ナビ
まとめ
本記事では「過労死ライン」について、守らない場合のリスクや過労死防止のためにできる取り組みなどを紹介してきました。
過労死ラインとは、労災認定の基準となる時間外労働時間のことです。2021年に労災認定基準が改正され、負荷要因の見直しや認定基準の変更など押さえておくべき改正点が存在します。
過労死ラインについて正しく理解し、従業員が健康に働ける環境を作っていきましょう。
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