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人的資本開示とは?義務化の開始・開示項目・進める方法を解説

人的資本経営に、投資家などのステークホルダーからの注目が集まるなか、人的資本開示の義務化が進められています。政府によって示された7分野19項目において、企業は情報を開示しなければなりません。

この記事では、人的資本開示の義務化について、開示が求められる項目や実施する方法も含めて詳しく解説します。

人的資本とは?

人的資本とは、個人が持っている才能や能力、資格などを資本としてとらえる考え方です。OECD(経済協力開発機構)では「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に具わったもの」と定義しています。

人的資本は企業の無形資産の一つとして注目されており、投資家が企業価値を見極める際の指標にもなっています。

近年、人的資本の考え方に基づいて推進されているのが、人的資本経営です。人的資本経営とは、人材の価値を最大限に引き出して、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方を指します。

人的資源との違い

人的資源とは、人材をモノ、カネ、情報などと同様の資源ととらえる考え方です。

資源は消費するものであるため、人材は労働力と考えられ、人材採用・教育にかかる費用はコストとされます。

一方、人的資本の考え方において、人材育成にかける費用はコストではなく、大きな価値を生み出すための投資であると考えられます。

人的資本開示とは?

人的資本開示とは、自社の人材育成方針などの人的資本に関する情報を、社内外のステークホルダーに公開することです。従業員の成長のための取り組みを、データ化して示します。

人的資本開示をすることで、企業の人材が持つ能力に関して、投資家、経営者、従業員間の相互理解を深められます。その結果、ステークホルダー同士の意見交換が促進され、企業の抱える課題解決につながるでしょう。

人的資本開示が注目されている理由

人的資本開示が注目されている理由は、以下の3つです。

  • 人的資本への関心が高まっている
  • 欧米で人的資本開示が進展している
  • ESG投資への関心が高まっている

それぞれについて解説します。

人的資本への関心が高まっている

IoTやAI技術などの技術革新が進展するなかで、人的資本への関心が高まってきました。

新しい技術を活用するためには人の能力が必要です。また、意思決定や創造性などが必要とされる、人にしかできない業務があることが、社会的に認識されつつあります。

人的資本に投資することで企業価値が向上し、企業の持続的な成長につながると期待されています。

欧米で人的資本開示が進展している

日本に先行して、欧米で人的資本開示が進展していることも、人的資本開示が注目されている理由の一つです。

2014年、EUは非財務情報開示指令により「社会と従業員」を含む情報開示を義務付けました。

アメリカでは2020年から、上場企業に対して人的資本の情報開示が義務付けられています。世界的な流れを受けて、日本でも情報開示の気運が高まっているのです。

ESG投資への関心が高まっている

世界的にESG投資への関心が高まっているため、日本でも人的資本開示が注目されるようになりました。

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に注目した投資のことです。

投資家は企業の環境問題や社会問題に対する取り組みに関心を向け、持続可能な経営を行っているかどうかを投資の判断材料としています。

人的資本は、ESG投資のなかの社会(Social)に該当する重要な要素です。

人的資本開示の義務化はいつからなのか

人的資本開示は、内閣府令により2023年3月決算以降から義務化されました。有価証券報告書を発行する企業のうち、約4,000社の大手企業が対象です。

人的資本に関する記載義務は、サステナビリティ情報の記載欄における以下の2つです。

  • 戦略:人的資本に係る人材育成方針・社内環境整備方針
  • 指標及び目標:測定可能な指標(インプット、アウトカム)目標および進捗状況

すでに女性活躍推進法または育児・介護休業法に基づく情報公開を行っている場合には、以下の項目の開示も義務付けられています。

  • 女性管理職比率
  • 男性育児休業取得率
  • 男女の賃金格差

人的資本開示が求められる7分野19項目

人的資本開示が求められる7分野は以下のとおりです。

  • 人材育成
  • エンゲージメント
  • 流動性
  • ダイバーシティ
  • 健康・安全
  • 労働慣行
  • コンプライアンス・倫理

それぞれの開示項目について詳しくみていきましょう。

人材育成

人材育成分野は情報の開示が義務付けられています。開示項目は「リーダーシップ」「育成」「スキルと経験」の3つです。

具体的には、人材育成のための研修時間や費用、スキル向上プログラムの種類や対象者、複数分野の研修受講率などが該当します。

自社の経営戦略の実現のための人材育成方針と目標、進捗状況についてわかりやすく記載しなければなりません。

エンゲージメント

エンゲージメント分野は、開示が望ましいとされています。エンゲージメントとは従業員満足度のことです。エンゲージメントを高めるための施策および、従業員がやりがいを持って働けているかなど、エンゲージメントの状況に関する情報を公開します。

具体的には、多様な働き方を推進する取り組みや、従業員エンゲージメント調査の結果などの開示が求められます。

流動性

流動性分野の開示項目は「採用」「維持」「サクセッション」の3つです。優秀な人材を採用し定着させるための施策、後継者育成のための施策など、人材の流動性に関する情報開示が求められます。

具体的には、離職率、定着率、新規雇用の総数・比率、採用・離職コスト、移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント、後継者カバー率などが該当します。

ダイバーシティ

ダイバーシティ分野は情報の開示が義務付けられています。開示項目は「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」の3つです。

具体的には、属性別の従業員・経営層の比率、男女間の給与の差、正社員・非正規社員等の福利厚生の差、育児休業等の後の復職率・定着率、男女別育児休業取得員従業数などが該当します。

企業が多様性を受け入れる環境づくりをしているか、従業員が制度を利用しやすいかなどを判断する指標です。

健康・安全

健康・安全分野における開示項目は「精神的健康」「身体的健康」「安全」の3つです。

企業が、従業員の健康や労働環境における安全に配慮しているかどうかを示す情報の開示が求められます。

具体的には、労働災害の発生件数・割合・死亡数、医療・ヘルスケアサービスの利用促進、安全衛生マネジメントシステムの導入、安全衛生に関する研修を受講した従業員の割合などが該当します。

労働慣行

労働慣行分野では、企業と労働者の関係が公正であるかどうかを示す情報の開示が求められます。

開示項目は「労働慣行」「児童労働・強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」の5つです。

具体的には、児童労働・強制労働に関する説明、団体労働協約の対象となる従業員の割合などが該当します。

コンプライアンス・倫理

コンプライアンス・倫理分野では、企業が法令を遵守しているか、社会的規範や倫理観に基づいて活動しているかを示す情報の開示が求められます。

具体的には、業務停止件数、苦情の件数、ハラスメント実態調査や内部通報制度、コンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合などが該当します。

人的資本開示を進める方法

人的資本開示は、大きく以下の3つのステップで進めていきます。

  1. 人的資本の開示項目の情報を整備する
  2. 目標やKPIを設定する
  3. 施策を実行しPDCAを回す

それぞれのポイントを解説します。

1. 人的資本の開示項目の情報を整備する

人的資本開示を進めるにあたっては、人的資本の開示項目の情報を整備する必要があります。

ステークホルダーがどのような情報の開示を求めているか、自社にとって意味のある情報はどのようなものかを検討しましょう。必要な人事データが不足している場合は、新たなデータを入手しなければなりません。

例えば、ダイバーシティに関する情報に対して、ステークホルダーが高い関心を持っている場合、外国籍従業員や障がい者の雇用率・在籍数などのデータを整備しましょう。

人的資本に関する情報を数値化できれば、データが明確化されて説得力が増します。

また、自社の経営戦略、社風、ビジネスモデルに基づいた独自性のある情報を開示することも重要です。人的資本開示によって、自社の魅力をアピールできるでしょう。

2. 目標やKPIを設定する

開示項目の情報を整備したら、自社の人材に関する課題と、将来目指す姿を明確にします。そのうえで、経営戦略につながる目標やKPIを設定しましょう。

人的資本経営を実現するには、経営戦略と人材戦略を連動させ、どのような背景で施策を行い、どのような成果を得られるかというストーリー性を持たせることが重要です。

例えば、AI技術を提供している企業において、ダイバーシティに力を入れた経営を行っているとします。

その場合、AI技術を活用してリモートワークやフレックスタイム制など、従業員の多様な働き方を推進する施策を行っていれば、経営戦略と人材戦略を連動させた人的資本経営を推進しているというストーリーを示せるでしょう。

3. 施策を実行しPDCAを回す

目標とKPIを設定したら、施策を実行してPDCAを回していきましょう。すぐには成果を得られなくても、何度も試行錯誤を繰り返していくうちに、目標へと近づけます。

例えば、健康分野においてヘルスケアサービスの利用率アップを目指して、従業員にサービスの周知を行ったものの、効果が上がらなかったとします。

その場合には、改善策として、サービスの利用に応じてポイントが貯まり、ポイント数に応じて健康食品がもらえるなどの仕組みをつくって、効果を確認していくことなどが考えられます。

すでに人的資本開示を行っている企業は、投資家などのステークホルダーからのフィードバックを反映させて、施策を改善していきましょう。

人的資本開示とは何かを理解して企業の持続的成長を実現させよう!

人的資本開示を進める方法には、人的資本の開示項目の情報を整備する、目標やKPIを設定する、施策を実行しPDCAを回す、などがあります。ただし、従業員の状態を正確に把握しなければ、人的資本開示を進めることは難しいでしょう。

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