株式投資や債券投資など各種投資活動において、企業の経営状態の把握は非常に重要です。投資家に適切な情報が公開されるよう、「ディスクロージャー」と呼ばれる制度が設けられています。ディスクロージャーに基づいて企業は各種情報を公開しなければなりません。
本記事ではこのディスクロージャーについて、種類や実施するメリット・デメリットなどを解説していきます。ディスクロージャーについて理解を深めたい方はぜひ一読してみてください。
ディスクロージャーとは
ディスクロージャー(Disclosure)とは政府・地方自治体・企業などが保有する情報を開示することを意味します。
ディスクロージャーは元々IT企業「システムなどの情報を公開する」という意味で使用されていました。しかしの他業界でも広く使われるようになり、現在では特に「企業情報の公開」という意味合いで利用されています。
企業の場合、ディスクロージャーでは投資家・株主・債権者などの利害関係者に対して経営情報を公開します。投資家は様々な情報をもとに投資先を決定しますが、ディスクロージャーによって公開される情報は、投資家にとって非常に重要な判断材料なのです。
ディスクロージャーが求められた背景
ディスクロージャーが日本で注目を浴びるようになったのは1990年代後半からです。その頃の日本では、金融市場の自由化・公正化を進めるための制度改革(金融ビックバン)が進められており、個人投資家の市場参入が活発になっていました。そのため、個人投資家が安心して活動できるよう、経営情報の公開が企業側に求められるようになったのです。
また企業の資金調達方法の変化も、ディスクロージャーが重要なった要因の一つです。従来の「銀行から融資を受ける」から「株式市場で資金調達をする」への変化に伴い、自ずとIRを含む企業の経営状態を投資家に公開する必要性が出てきたのです。
ディスクロージャーの種類
ディスクロージャーには「法律・取引所規則によって義務化されているもの」と「企業が任意で公開するもの」の2種類あります。
法律・取引所規則によって義務化されているもの
金融商品取引法は、投資家に対し、決算短信・有価証券報告書・財務諸表などの公表を定めています。これは義務なので、違反すると刑事罰の対象となります。
また公開時期も定められており、企業側が勝手に時期を変更することはできません。
そして会社法では株主に対する情報公開が定められており、定時株主総会の招集通知に計算書類(貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書)及び事業報告の提供が義務付けられています。
企業が任意で公開するもの
企業が任意で自主的に実施するディスクロージャーをIR(Investor Relations:投資家向け広報活動)と呼びます。IRの内容は、公正な情報であれば、自由に企業が決めることが可能です。
<主なIR活動の内容>
- 決算や事業に関する説明会の開催
- 年次報告書等の資料作成
- ホームページ上の情報開示
- ウィークリー・レポートやマンスリー・レポートの発行
- 環境保全活動やCSRに関する情報公開
IRの特徴は、公的な書類(財務諸表など)よりも情報が分かりやすくまとめられているため、投資初心者の人も無理なく情報を確認できる点です。インターネット上でレポートを公表している企業も多いです。
金融機関にもディスクロージャーが求められる
金融機関のディスクロージャーについて解説します。金融機関の場合は、銀行法などの法律で財産状況・業務内容に関する資料の公開が義務付けられています。
また金融機関のディスクロージャーは下記3点の役割も果たしています。
- リスク管理状況を開示する
- 金融市場の透明性を高める
- お客様からの信頼や評価を高める
例えば千葉興銀は公式HPで下記にように表明しています。
引用:当行は、地域金融機関としての社会的責任と公共的使命を認識し、透明性の高い情報開示を図るとともに、お客さま・株主・投資家・地域社会のみなさまからの信頼・評価を高めるため、財務情報やその他情報について、適時適切かつ分かりやすい開示に努めます。
引用元:情報開示方針(ディスクロージャー・ポリシー)|IR情報|千葉興業銀行
銀行のリスク管理状況を取引先に開示する
抱えている負債残高などのリスク情報を正直に開示することで、投資家から信頼を得やすくなります。しかし、負債残高が多すぎると株価が下がる可能性もあるため、要因も正確に説明することが求められます。
金融市場の透明性を高める
金融市場の透明性を高めることが可能です。金融機関は機関投資家という一面も合わせており、個人投資家よりも大きな金額を動かせます。金融機関が保有する余剰資産が明らかになれば、個人投資家も投資戦略を調整することできるのです。
ディスクロージャーのメリット
ディスクロージャーのメリットとして下記の点が挙げられます。
- 企業経営の透明性を高められる
- ステークホルダーから信頼を得られる
- 経営ビジョンを伝えられる
企業経営の透明性を高められる
経営情報を開示すれば、投資家は企業の状態を数値的に正確に把握できます。そのため、「ディスクロージャーを実施している企業=投資家に対してオープンな企業」と認識されやすいです。
消費者やステークホルダーから信頼を得られる
消費者やステークホルダーからの信頼が高まり、取引先や投資対象としての安心感が生まれます。特にBtoCの場合は、消費者にも安心感を与えられるため、お客様から選ばれやすい企業となるでしょう。
経営ビジョンを伝えられる(IR)
IR活動によって経営ビジョンを投資家に伝えられる点もディスクロージャーのメリットです。財務諸表など数値情報だけでは伝えきれない部分も、IRであれば文章にして具体的に伝えられます。企業の目指す方向性をきちんと発信すれば、投資家も企業の将来に期待し、積極的に投資をするでしょう。
ディスクロージャ―のデメリット
ディスクロージャーではメリットのみならずデメリットも幾つか生じてきます。ディスクロージャーのデメリットは下記の2点です。
- 書類準備・情報公開にコストがかかる
- 企業価値を下げてしまう可能性もある
書類準備・情報公開にコストがかかる
掲載情報や書類発行に多くの労力が必要です。また原稿の編集や校閲の作業が生じる場合もあります。人員コストも生じるため、予算をあらかじめ確保しておかねばなりません。
企業価値を下げてしまう可能性もある
義務化されているディスクロージャーでは、公開する情報を選別することができません。赤字や資産切り崩しなど、投資家にとってマイナスの情報も公表しなければなりません。そのため、場合によっては投資家が撤退したり、企業価値が下がる可能性もあります。
ディスクロージャーの関連用語
ディスクロージャーに関連した用語として、下記の用語が挙げられます。
- ディスクロージャーポリシー
- フェア・ディスクロージャー
- ディスクロージャーホットライン
- 金融商品取引法
- 有価証券報告書
- 決算短信
ディスクロージャーポリシー
企業情報の開示に関する企業方針のことです。内容は企業によって異なりますが、概ね下記です。
基本方針
情報開示体制
情報の開示方法
沈黙期間
社内体制の整備 など
ディスクロージャーポリシーは企業のホームページ上で確認できることが多いです。
フェア・ディスクロージャー
投資判断を左右する未公表の情報について、第三者に提供することを禁じるルールです。2017年より導入されましたもので、投資家が公平に企業情報を獲得できるよう、フェア・ディスクロージャーの遵守が企業側に求められています。
ディスクロージャーホットライン
2006年に設置された金融庁の「ヘルプライン」と呼ばれる内部通報窓口のことです。企業のディスクロージャーに関する不正や問題、金融庁に通報することが可能です。
ディスクロージャーホットラインは、内部通報者の保護などを目的に設置されました。この制度により、安全に告発が出来るため、ディスクロージャ―の不正防止につながると期待されています。
金融商品取引法
金融商品取引法とは、有価証券の発行・売買など金融商品の取引に関して規定し、投資家の保護や経済の円滑化を目的とする日本の法律です。
もともと「証券取引法」という名称でしたが、2007年の一部改正に伴い、「金融商品取引法」に改題されました。
有価証券報告書
有価証券報告書とは上場企業が発行する企業情報、またその書類のことです。企業概要や事業状況、財務状態などが開示されます。
下記条件に該当する企業に、有価証券報告の提出が義務付けられています。
東証1部・2部、マザーズ、ジャスダックなど金融商品取引所に上場された有価証券の発行者
引用元:有価証券報告書とは何かをわかりやすく解説!提出義務がある記載要綱とは | クラウド会計ソフト マネーフォワード
店頭登録(国内法人で上場されていないもののうち、店頭有価証券に関する規定が一定以上のディスクロージャーが求められるもの)のある有価証券の発行者
6月の通算50名以上の勧誘、1年の通算1億円以上の売り出しや募集を行う有価証券届出書、または有価証券通知書を提出する有価証券発行者
所有者数1000人以上の株券や優先出資証券、総出資総額1億円以上で所有者数500人以上のみなし有価証券の発行者
上記の条件に当てはまる場合、上場企業でなくても有価証券報告書を開示する必要があります。大規模な企業は有価証券報告書の開示義務があると考えて良いでしょう。
決算短信
決算短信とは企業の決算発表の内容をまとめた書類です。有価証券報告書は決算から3ヶ月以上後にしか開示されません。そのため、投資家へ決算情報をなるべく早く知らせるために、決算短資が発行されます。
決算短信は、基本的に決算から1~2ヵ月後に証券取引所・メディアを通じて公表されます。また企業のホームページでも決算短信を確認することが可能です。
注意点は、あくまで決算短信は速報値版であり、正式な数値ではないことです。一部、企業側の推測で記載されている部分もあります。正確な情報は有価証券報告書を見るのが確実です。
まとめ
ディスクロージャーとは投資家などの利害関係者に対して企業情報を公開する制度です。ディスクロージャーには金融商品取引法などで義務化されたものと、IRなど企業が任意で公開するものに分かれています。上場企業の場合、有価証券報告書・決算短信などを規定されたタイミングで公開する必要があります。
ディスクロージャーによって企業経営の透明性向上、市場の公平化が担保されています。金融商品を取り巻く環境はますます複雑化していますので、今後もディスクロージャーが果たす役割は高まっていくでしょう。
参考:ディスクロージャー/情報開示│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券
参考:ディスクロージャーの意味とは?企業のメリットやデメリットは? | HUPRO MAGAZINE
参考:金融商品取引法とは|目的と概要・法の禁止事項を分かりやすく解説|企業法務弁護士ナビ
参考:ディスクロージャーの専門用語集|IR情報|株式会社プロネクサス
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