職場や仕事には、さまざまなハラスメントが存在します。パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどに加え、近年は「モラルハラスメント」が問題視されるようになりました。
モラルハラスメントはモラハラと略され、倫理や道徳に反した嫌がらせを意味します。
本記事では、モラルハラスメントの意味を中心に解説していきます。モラルハラスメントに関して知識を深めたい方、おさらいしたい方などはぜひご参考ください。
モラルハラスメントとは何か|意味や定義を解説
モラルハラスメントとは、倫理や道徳(モラル)に反した嫌がらせを意味します。
厚生労働省の定義では、「言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること」とされています。
モラルハラスメントは、上司と部下、同僚(先輩後輩、同期)同士で起こることが多く、定着率とモチベーションの低下につながるため、いわゆる悪い職場をつくる大きな要因だといえます。
モラルハラスメントとパワーハラスメントの違いは?
パワーハラスメントとの違いはあるのでしょうか。明確な違いは「職場・業務上の優位性があるか」です。
モラルハラスメントがモラルに反した嫌がらせであるのに対して、パワーハラスメントは地位や職場内の優位性を背景にしたものです。
つまり、モラルハラスメントは職場や仕事において業務上の優位性に関係なく起こり、さらに、家庭内や友人間などプライベートでも起こり得ます。
モラルハラスメントの特徴|5つの具体例
モラルハラスメントは、定着率とモチベーションの低下につながるため、早急に対応しなければなりません。
近年、従業員エンゲージメント(働きがい)が注目され、企業は従業員との心理的な結びつきを強固なものにしようと動いています。
また、終身雇用という価値観の崩壊や転職市場の活発化などの後押しを受け、「よい良い職場・仕事」を求める人材はとても増えています。
そこで、モラルハラスメントの特徴を具体的に示します。自分の振る舞いや周囲の行動が該当しないか確認しましょう。
- 1.無視する
- 2.物に当たる
- 3.プライベートなことに介入する
- 4.言葉で責めて、相手の心を攻撃する
- 5.仲間外れにする
無視する
相手からの挨拶や声を掛けられても、無視する行為はモラルハラスメントです。その他にも、「無言でいる」「報告・連絡・相談をしない」なども含まれます。業務上のつながりが強い間柄であれば、仕事の妨害につながります。
物に当たる
自分の怒りやネガティブな感情の処理ができず、周りの物に当たる行為はモラルハラスメントに該当します。「大きな音を立てる」「大声を出す」なども控えるべきです。器物破損、脅迫などの恐れがあります。
プライベートなことに介入する
プライベートなことに介入するのは立派なモラルハラスメントです。親睦を深めるためとはいえ、相手にもプライベートがあります。越えてはいけない一線を意識し、雑談や何気ない会話でも無神経にしつこく聞いてはいけません。
言葉で責めて、相手の心を攻撃する
人格否定や相手の尊厳を傷付ける言葉で責め立てることも、モラルハラスメントになります。言葉の暴力で相手の心を攻撃する、精神的な暴力・苦痛は目に見えないものの、ダメージが大きいものです。容姿だけでなく、「使えない」「給料泥棒」など過度に能力に言及するのもいけません。
仲間外れにする
根も葉もない噂を流して嫌な印象を植え付けたり、周りの人間関係から切り離そうとする行為もモラルハラスメントに該当します。「食事や飲み会に誘わない」「陰口や誹謗中傷を言う」も含まれます。
職場や仕事で起こりやすいモラルハラスメント
モラルハラスメントの結果、メンタル不調になってしまうことがあります。
例として、次の4つがメンタル不調として挙げられます。
- 1.心身症
- 2.うつ病
- 3.適応障害
- 4.心的外傷後ストレス障害(PTSD)
心身症
心身症とは、社会的ストレスの影響で発症する疾患の総称です。その名のとおり、”心”と”身体”に疾患が現れ、日常生活で仕事や対人関係などの社会的ストレスに無自覚な場合にも発症・悪化し、一般的な治療では改善困難なことが多いです。
代表的な症状としては、過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、本態性高血圧、アトピー性皮膚炎、頭痛(筋緊張型頭痛、片頭痛など)、疼痛性障害などが挙げられます。
うつ病
メンタル不調といわれてすぐに思い浮かぶのがうつ病ではないでしょうか。人格否定や言葉の暴力だけではなく、仕事で裁量が与えられなかったり、激務で不眠が続いたり、さまざまな原因で発症するケースが多いです。
また、一度発症すると、考え方がネガティブになる→自己肯定感が下がる→ストレスに耐えきれず辛い気持ちが大きくなる、という負のループに陥ります。
主な症状としては、睡眠障害、食欲低下、終日気持ちが落ち込む、無気力感などが挙げられます。最近は、薬物療法や認知行動療法などの治療が行われ、職場復帰もできるようになりました。
適応障害
適応障害は、特定の状況やシーンになると症状が現れる、という特徴を持っています。日常生活を送るなかで、明確な原因で起こるケースが多く、その原因に対して過剰に反応してしまう状態を指します。
たとえば、「会社に向かおうとバスに乗ったが、アナウンスの声が頭に響いてうるさく聞こえ、バスを降りて遅刻や欠勤をする」などがあります。
人によって症状はさまざまですが、主に不安感、頭痛、不眠などがよくある症状とされています。
(参考:厚生労働省「e-ヘルスネット」)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
厚生労働省「e-ヘルスネット」では、心的外傷後ストレスは、「人の対応能力を超えた強い衝撃的な体験が心に傷を残し引き起こされる精神障害」と定義されています。
大きなショックや耐え難い出来事に遭遇し心に傷を負った、というイメージです。職場や仕事においても起こり、「皆の前で恥ずかしくなるほど叱責され続けた」「長時間にわたって会議室で詰問された」などがあり、脳の機能障害によって引き起こされるため意識的なコントロールが難しく、治療自体も非常に難しいという特徴があります。
具体的な症状としては、次の3つが挙げられます。
フラッシュバック
事故・災害などの体験を突然鮮明に思い出し追体験する
回避行動
原因となった出来事・人物に関する事物を回避したり、記憶の呼び起こしを回避する
覚醒亢進
ささいな刺激にも過敏反応する イライラや不安感 注意力散漫 感情のたかぶり
以上が、モラハラが原因で引き起こされる4つのメンタル不調です。いずれも、重症化すると長期休職、退職などを選択せざるを得ない状況にまで追い込まれてしまいます。さらに、社会復帰が困難なケースもあり、「モラルハラスメントでは?」と感じることがあれば、すぐに相談窓口を利用したり、組織として迅速に対処すべきです。
モラルハラスメントの被害者になりやすい人とは
モラルハラスメントの被害者になりやすい人には、7つの特徴があります。
- 責任感が強い
- 謙虚で真面目
- 素直
- 空気を読みすぎる
- 他人の気持ちを優先する
- 自分に自信がない
- 自分が悪いのではないかと考えてしまう
自分より他人を思いやる気持ちがある、優しくて真面目な人がモラルハラスメントの被害者になりやすいといえます。
なぜなら、嫌なことをされたり、強い口調で責められても「自分が悪かったのかな?」「機嫌が悪いのは自分のせいか?」と考え、加害者を「文句を言わないから言っても平気だ」と勘違いさせてしまうからです。
他人を思いやる気持ちや真面目であることは、素晴らしいことです。ただ、それはお互いに助け合える関係だからこそ成り立ちます。モラルハラスメントの被害者になって、メンタル不調になる前に対処が必要です。
モラルハラスメントの被害を受けたときの対処法4選
モラルハラスメントについて加害者意識を持っていない人はとても多く、被害者だけが傷を負っていることがあります。
また、被害者の特徴に挙げたとおり「優しくて真面目な人」がターゲットにされやすいこと、価値観の違いだから相談する勇気が持てないと泣き寝入りすることなどから、職場でうやむやになることもあります。
ただ、モラルハラスメントは早期対策が鍵です。モラルハラスメントの被害を受けたときの対処法を4つご紹介します。
- 1.録音・記録する
- 2.加害者と距離を置く
- 3.第三者と一緒に話す
- 4.相談窓口や医療機関を使う
録音・記録する
1つ目は、録音・記録することです。モラルハラスメントの一部始終をICレコーダーで録音したり、日記のように記録したりして証拠を集めましょう。メールやLINEなどテキストベースのやり取りであっても、スクリーンショットや写真で残します。
録音や記録があれば、第三者へ相談する際に役立ちますし、モラルハラスメント被害の決定的な証拠になります。
加害者と距離を置く
2つ目は、相手と距離を置くことです。モラルハラスメントは加害者と被害者がいて初めて成り立ちます。加害者からのダメージは心身に深いダメージを負わせるため、可能であれば、離れるべきです。
職場や仕事の場面であれば、「異動を申し出る」「担当業務を変更する」「離職する」などの方法が考えられます。
どうしても会話をしなければならないのであれば、必要最低限の会話のみで済ませ、関心がないことを示しましょう。
攻撃されることであなたが抱く「罪悪感」は、相手に関心があるからこそ生まれるもの。あなたがその関心をなくしてしまうことが、相手の攻撃的な態度を買えていく。
離れたくても離れられないあの人からの「攻撃」がなくなる本(小川淳・著)
第三者と一緒に話す
3つ目は、第三者を巻き込んで話すことです。モラルハラスメントの証拠を集め、加害者と距離を置いている間に、上司やマネージャーだけではなく、外部機関や弁護士など専門家を交えて加害者と話をしましょう。
心身のダメージが癒える前に加害者と被害者だけで問題を解決しようとしてはいけません。全てを自分の力で解決しようとせず、誰かの力を借りることを考えましょう。
相談窓口や医療機関を使う
4つ目は、社内の相談窓口や外部の医療機関を使うことです。人事部・総務部、メンタルヘルス委員や産業医など、いつでも心置きなく相談できる相談窓口が設けられていたら、積極的に活用しましょう。
もしくは、外部のカウンセラーや公共職業安定所などにいる専門の相談員などを訪ね、自分の気持ちを整理するつもりで、相談しましょう。
また、職場や仕事のモラルハラスメントが原因でメンタル不調を引き起こし「会社を訴える」という事態にならないために、労務担当者は、職場にモラルハラスメントの火種がないかをチェックする必要があります。
まとめ
モラルハラスメントは退職やメンタル不調の大きな原因となっています。
加害者は無意識に、被害者は無自覚に事態が深刻化するケースが多いですが、一人ひとりのモラルハラスメントに対する意識を変えることが何よりの予防になり得ます。
本記事が、従業員エンゲージメントを高めるためにも、モラルハラスメントに対する認識を深め、一人ひとりの従業員が働きやすい環境づくりに活かしていただければ幸いです。
【参考】ハラスメントの種類とは?(外部リンク・労務SEARCH)
https://romsearch.officestation.jp/jinjiroumu/syokuba/4688
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