役職定年とは、一定の年齢を迎えた人が管理職を退くことを意味し、社員を多く抱える企業では「役職定年制」導入の割合が高くなっています。本記事では、役職定年制が導入された背景やメリット・デメリットを解説。導入によって起こる問題点や企業の事例についてご紹介します。
役職定年とは?
「役職定年」とは、一定の年齢を迎えた人が管理職(課長や部長など)の役職を退くことを意味し、役職定年制とも呼ばれています。雇用契約が解除となる定年退職とは異なり、役職は外れますが雇用は継続したままです。
役職を外れる年齢は企業によって違いがあり、50代中盤から後半が一般的です。地方公務員に関しては60歳に達した管理職を降格させることが2021年の国会で可決・成立しました。
役職定年制が導入された背景
役職定年制が導入された背景は、1986年に「60歳定年」が努力義務になったことが挙げられます。
以前の日本企業の定年年齢は55歳が一般的でしたが、1998年には60歳未満の定年制禁止が施行されたことで「60歳定年制」が開始されました。
定年年齢が60歳になったことで、企業は以前よりも5年間長く社員を雇用することが義務づけられ、人件費がかさむことによる経営の悪化が課題となりました。
年収の高い管理職を5年延長して雇用する余裕がないことなどが理由となり役職を外すことで年収をダウンさせる役職定年の制度が定着したといわれています。
役職定年制導入による企業のメリット
役職定年制導入による企業のメリットは以下の点が挙げられます。
- 組織の若返りや新陳代謝を促すことができる
- 人件費を抑えられる
組織の若返りや新陳代謝を促すことができる
企業は役職定年制によって組織の若返りや新陳代謝を促すことができます。
これまでの日本は、年功序列のため年齢を重ねた社員は定期的に役職や賃金が上がっていくことが通例でした。課長や部長などの管理職ポストに就くと定年退職するまでの間、同じ社員が独占してしまうことも珍しくありませんでしたが、役職定年制を導入することで役職の独占が解消され、優秀な人材を滞りなく登用・昇進させることが可能になりました。
人件費を抑えられる
役職定年制は、役職を外して人件費を抑えられる点も企業側のメリットとして挙げられます。
2006年に65歳までの雇用確保が義務化されましたが、これまでより多くの年数を雇用しなければならないため、当然のことながら人件費がかさみます。
課長や部長などの役職のまま定年まで雇用すると基本給に加えて役職手当を支払う必要があるため経営を圧迫してしまいます。役職定年を導入して役職を外し、基本給のみを支払うことで企業はコストを抑えたままシニア人材の雇用を守ることができます。
役職定年制の実態
企業にとって組織の若返りや人件費削減などのメリットがある役職定年制ですが、導入状況などの実態を確認しましょう。
役職定年制の導入状況
2021年1月に実施されたマンパワーグループの調査では、役職定年制を導入している企業は43.5%となっています。社員規模別の役職定年制導入の割合は以下のとおりです。
【社員規模別】
100人以下:24.4%
101人~500人以下:43.5%
501人以上:59.6%
社員が501名以上と企業規模が大きいほど役職定年制を導入している割合が高くなっています。
参考:約6割は「65歳以上の継続雇用」を導入済み。シニア雇用の取り組みや課題とは?|マンパワーグループ
役職定年後の業務
役職定年制により役職を外れた後はこれまでの業務内容と変わらないケースが一般的ですが、所属部署の社員の補助や後輩社員への教育など、サポート業務を任せるケースも多くなっています。また、これまでの経験やスキルをいかし、後進に対して技術や技能の伝承を行うケースもあります。
役職定年後の年収
管理職などの役職がある場合、基本給に手当がプラスされて支給されますが、役職定年後は手当がつかなくなることから一般的に年収がダウンする傾向にあります。
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団が調査・作成した2018年の資料では、役職定年した9割以上の人が年収減になっており、現状維持は1割弱との結果がでています。役職定年後の年収は、これまでの50~75%程度のほか、50%未満に下がっている人も4割いることから大幅な年収ダウンにつながる可能性もあります。
参考:50代・60代の働き方に関する調査報告書(2018年)|公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団
役職定年制導入のデメリット
導入する企業が増えつつある役職定年制ですが、導入することで社員に以下のようなデメリットが起こる可能性があります。
- モチベーションが低下する
- 異動により経験や知識がいかせなくなる
- 肩書がなくなることで活動に制限がでる
モチベーションが低下する
役職定年制導入のデメリットの一つとして社員のモチベーション低下が挙げられます。モチベーション低下の大きな理由は、これまでの肩書がなくなったことに加えて、年収がダウンすることです。
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団によると、役職定年後に年収がダウンした人の6割はモチベーションが低下しているとの結果がでています。また、年収が維持できても肩書がなくなることで4人に1人のモチベーション低下がみられました。
役職定年制によって雇用は確保されますが、年収が大幅にダウンした人の場合、生活にも大きな影響がでることになります。
参考:50代・60代の働き方に関する調査報告書(2018年)|公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団
異動により経験や知識がいかせなくなる
役職定年後に他部署への異動を命じられることも考えられます。異動があった場合、これまで仕事をしてきた部署での豊富な経験や知識などがいかせない事態に陥る可能性もあります。異動によりメリットを感じている人もいますが、後進の育成や技術・技能の伝承を企業として行いたい場合、異動ではなく同じ部署に留めておきサポート役に回ってもらうことも必要です。
肩書がなくなることで活動に制限がでる
役職を外れることでこれまで出席していた会議への参加や、重要な社内情報にアクセスする権限がなくなるなど、以前とは異なり活動に制限がかかります。立場が変わることで、やる気が維持できなくなることや、会社からの期待を感じることができず不信感を抱いてしまうことも考えられます。
役職定年後の社員のモチベーション低下を防ぐ方法
役職定年になった社員はモチベーションの低下などが起こりやすくなりますが、仮に60歳で役職を外れた場合、定年を迎えるまでにはまだ数年間あります。
役職定年後の社員のモチベーションダウンをいかに防ぐかは企業にとって重要な課題です。役職定年後の社員のモチベーションを低下させない方法をご紹介します。
キャリアデザイン研修の提供
役職定年後のモチベーション低下を防ぐには、キャリアデザイン研修を提供し、今後の社会人人生について考える機会を与えることが大切です。
役職定年後でも組織の役にたちたいと思っている人は多くいますが、処遇や役割などが変わることでモチベーションが低下し、パフォーマンスを存分に発揮できない事態に陥ることもあります。キャリアデザイン研修を開催することで以下のポイントを社員に伝え考えさせることができます。
- 役職定年者に対して期待や役割を明確に伝えられる
- 役職定年後のキャリア形成のイメージを明確にできる
- 自らの経験や強みをいかしたキャリアを考えられるようになる
- 役職定年者の事例を確認できる
キャリアデザイン研修では企業側が役職定年者に対する期待や役割を伝えることが大切です。役職定年後を見据えたキャリアデザインや目標など促し明確にすることでモチベーションの低下を回避し、継続した活躍を期待することが可能になります。
活躍できる場を提供する
役職定年後にモチベーションが低下する原因として、やりがいを感じられない職務を担当する場合や経験・知識がいかせない部署に異動になることなども挙げられます。
役職を外れた後でも働くモチベーションを維持してもらうには活躍できる適切な場を提供することが大切です。
業務のミスマッチは社員のモチベーションに影響を与えるため、企業側はできるだけ役職定年者の希望に沿った業務を準備することが重要です。
これまでの経験や知識がいかせる同じ部署のメンバーのサポート役を任せたり、管理職時と似たような働き方が可能な新たな専門職や肩書を与えたりすることも考える必要があります。
役職定年者のモチベーションを高める施策を行うことで、後進の育成などもスムーズに行うことができ、企業として組織をより強固なものにすることが可能です。
適正な賃金制度を構築する
先述のとおり役職定年後はこれまでの年収からダウンすることが一般的です。ダウンの幅が大きいと仕事への意欲も低下してしまうため、給与や賞与の適正化を行うことでモチベーションの低下を防ぐ必要があります。
適正な賃金制度を構築できない場合、金銭的な報酬だけではなく、やりがいなどの非金銭的な報酬を与える「トータルリワード」の実践が効果的です。
トータルリワードとは、「感謝」や「自己の成長」など金銭以外のさまざまな報酬を与える施策です。例えば依頼した業務をやり遂げた際に労いや感謝の言葉をかけることで、承認欲求を満たすことができ、金銭以外で社員のモチベーションをアップさせることが可能です。
勤務時間や労働日数を減らす
管理職時と比べて勤務時間や労働日数を減らすことも社員のモチベーション低下を防ぐ方法の一つです。役職定年によって年収がダウンしている分、勤務時間や労働日数を減らすことでバランスをとることができます。
社員は、自由な時間や休暇などが増えるため、家族と過ごす時間や趣味に費やす時間が増え、定年退職後のプランについてもじっくり考えるゆとりができます。
モチベーションについては以下の記事で詳細を解説しているので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
役職定年制を導入している企業の事例
役職定年制は社員を多く抱える企業ほど導入しています。役職定年制を導入する企業の事例をご紹介します。
大和ハウス工業株式会社の事例
大和ハウス工業株式会社では、役職定年後の社員の役割を以下の3つに分け、期待される役割を明確にしています。
- 理事コース
- メンターコース
- 生涯現役コース(プレイヤーコース)
「理事コース」は、60歳以前からライン長(部長や支店長など)の職を担っていた人が引き続き同じ役割を担うコースです。年収も役職定年前と変わらない水準が約束されています。
「メンターコース」は、ライン長(部長や支店長など)経験者が指導的立場で経験や知識の伝承を行うコースです。メンター手当として月5万円が支給され、2年目以降は「理事コース」に昇格する可能性もあります。
「生涯現役コース(プレイヤーコース)」は、ベテランプレーヤーとして第一線での活躍が望まれるコースです。販促手当などの職種による成果給は現役の社員同様に支給されます。
役職定年後の61歳以降も処遇の引き上げを行うことで、社員のモチベーションを低下させない工夫をしています。
富士通株式会社の事例
富士通株式会社では、課長・部長の場合は55歳、本部長の場合は57歳で役職から外れる「役職離任」制度を採用しています。
給与は管理職時代から変わらない場合もありますが、大多数は25%ダウンし、部下もいなくなることから社員のモチベーション低下がみられました。
モチベーションの低下を打開するために富士通株式会社では、管理職であったSEの能力や経験をいかす目的で2015年に「FJQW(富士通クオリティ&ウィズダム)」を設立。役職定年となった全SEを出向や転籍させ、新たな活躍の場を提供することでモチベーションの低下を防ぐとともに、人材をいかす取り組みを実践しています。
まとめ
役職定年は企業にとって次世代の人材を昇進させ組織の新陳代謝を促す効果や人件費を抑えられるメリットがある一方で役職を外れた社員のモチベーション維持が課題として挙げられます。組織を活性化させる上で役職定年制は効果的ですが、これまで管理職として企業を支えてきた社員への支援も検討した上で導入することが大切です。
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