ビジネスの世界では企業同士が熾烈な競争を繰り広げることが前提ですが、時には互いに協力し合って新たな価値を創造することも技術発展で重要です。
そこで近年、注目を集めているのが「オープンイノベーション」という戦略です。今回は、このオープンイノベーションについて、概要やメリット、事例などを解説していきます。
オープンイノベーションとは
オープンイノベーションとは、新技術・新製品の開発に際して、自社以外の組織・研究機関などからノウハウを取得する」概念です。例えば異業種交流プロジェクトや、共同研究などがあります。企業同士が互いに技術を共有して、新たなイノベーションを起こしていく点が特徴です。
この概念は2003年にハーバード・ビジネススクールのヘンリー・チェスブロー教授によって提唱されました。
アメリカなどの欧米諸国の企業では、オープンイノベーションが積極的に採用されており、活発な開発・研究の土台となっています。対して日本企業は、開発・技術のノウハウを共有する文化が薄く、まだ十分に広まっていません。
これまでの日本ではクローズドイノベーションが主流
日本ではオープンイノベーションよりも「クローズドイノベーション(社内の組織・研究機関でのみイノベーションを起こす)」が主流です。
たしかに、全て人材や研究開発を自社で賄うため、成功すれば技術や利益などを独占できる点は大きなメリットです。自社の技術・ノウハウが流出することもありません。とりわけ製造業などの国内メーカーは、クローズドイノベーションを通して成長してきたといってよいでしょう。
しかし、クローズドイノベーションの致命的なデメリットは、開発に時間とコストがかかることです。例えばコロナウイルスのPCR検査キットの開発は、ドイツや韓国がいち早く開発していました。
しかし遅れをとった日本は、あくまでも自前にこだわりました。アメリカやロシアのように「不足分は輸入で補う」ことはしなかったのです。
参考:日本人は自前主義の弊害をまるでわかってない | コロナショックの大波紋 | 東洋経済オンライン
また、クローズドイノベーションでは研究・開発が閉鎖的になりやすいです。企業の成長角度が一定レベルになってしまうため、成長著しいベンチャー企業などに先を越されてしまう可能性が出てきます。
そのため、国内の大手企業も率先してオープンイノベーションを採用すべきなのです。
国内企業がオープンイノベーションを実践する意義
上記以外も、日本企業が実践する意義は多数あります。
- イノベーションを創出しようとする姿勢が企業価値向上に寄与する:投資家や株主から高く評価されます。また、優秀な人材の採用もしやすくなります。
- 経営幹部を含めたメンバーの意識改革ができる:オープンイノベーションを阻害する地位・役職・部署の壁を壊し、連携による協業ができます。意思決定のスピードも早くなし、挑戦する文化が根付くでしょう。
- 収益に貢献できる:国内外の起業家や企業との接点が増え、世の中の変化をいち早くキャッチアップし(情報への感度が高くなる)、新たな勝機をつかみやすくなるでしょう。
また、多様な交流により新しいアイディアが生まれやすくなります。
参考:日本企業のオープンイノベーションに3つの意義: 日本経済新聞
オープンイノベーションの種類は3つ
オープンイノベーションの種類は、大きく分けて下記の3つに大別されます。
- インバウンド型
- アウトバウンド型
- 連携(カップルド型)
インバウンド型
オープンイノベーションにおけるインバウンドとは、外部企業から技術やアイディアを取り込み、自社内のイノベーションを進めていく方式です。他社の特許取得済み技術であっても、インバウンドであれば導入可能です。見返りとして、ライセンス料の支払いや自社技術の提供などを行う必要があります。
アウトバウンド型
オープンイノベーションにおけるアウトバウンドとは、自社内の技術・アイデアを外部に開放し、新しい知見を募集する方式です。具体例としては、自社の特許を提供(ライセンス・アウト)や、開発環境提供、メディアでの開示や広報、知財の無償開放などです。そのため、特許を多く取得している大企業に向いています。中小企業も、大手企業のアウトバウンドを活用することで、自社にない技術・開発環境を獲得できます。
参考:アウトバウンド型オープン・イノベーションとイノベーション成果
連携(カップルド型)
連携とは、インバウンド・アウトバウンド両方を組み合わせた方式です。協力体制を強く結ぶ点が連携型の特徴です。例えばパートナーシップです。
オープンイノベーションのメリット
オープンイノベーションを導入するメリットとして、下記の点が挙げられます。
- 自社にない技術・知識を獲得できる
- 短期間、低コストで開発ができる
- シナジー効果を見込める
- 競合他社に差を付けられる
自社にない技術・知識を獲得できる
自社にない技術・知識を獲得できます。互いに共有することで、1社では実現できない技術の発展が期待できます。
短期間、低コストで開発ができる
一からの新製品開発には、数年~10年以上の歳月を要することもあるでしょう。一方、他社の技術の獲得では、短期間かつ低コストでが実現できます。
特にニーズが目まぐるしく変化する現代社会では、開発スピードが勝敗を決める要因の一つです。利用できる技術がすでに存在するのであれば、共有して利用した方が効率的です。
シナジー効果を見込める
オープンイノベーションの導入で、シナジー効果(相乗効果)も期待できます。
協業や共同研究によって、互いの持つ力が作用し合うのです。
競合他社に差を付けられる
多くの日本企業、特に中小企業は、未だクローズドイノベーションの状態です。オープンイノベーションによって、クローズド状態の競合他社よりも速いスピードで技術獲得・企業成長ができます。
日本の中小企業が保有している技術力は、世界的に見ても非常に高いです。技術力の高い企業同士がオープンイノベーションで繋がれば、大企業を凌ぐ技術力の獲得に繋げられるかもしれません。
オープンイノベーションのデメリット
オープンイノベーションには、デメリットもあります。
- 技術・アイディアが流出する
- 自社の開発力が低下する
- コミュニケーションコストが増える
- 製品開発・販売のフローが複雑化する
技術・アイディアが流出する
オープンイノベーションによって、自社の技術・アイディアが第三者に流出する可能性があります。提携先とは秘密保持を締結しますが、何かの拍子で技術・アイディアが流出してしまう可能性はゼロではありません。自社の強み(コア・コンピタンス)を守るために、社内でも開発力を推進させる仕組みを作っておきましょう。
自社の開発力が低下する
これまで自社で賄った技術の一部を代替することで、自社内の開発力低下に繋がる可能性があります。これは海外の安価な労働力・原料を利用する状況と似ています。自社の開発能力を落とさないためにも、あくまでも「他社技術を利用した上で自社開発を続ける」というスタンスを持つことが重要です。
コミュニケーションコストが増える
コミュニケーションコストとは、情報伝達や意思疎通にかかる費用・時間を指します。提携先企業とは、自社内よりもコミュニケーションコストがかかりやすくなります。
特に、双方が初めてだと、交渉やすり合わせに時間を要するでしょう。結果的に、提携関係自体が解消されてしまうリスクもあります。
製品開発・販売のフローが複雑化する
外部企業との提携によって、製品開発・販売のフローが複雑になります。製品開発からリリースまで時間を要してしまう可能性もあります。スピード重視で製品開発・販売を行いたい企業にとっては懸念事項になるかもしれません。
オープンイノベーションを成功させるポイント
オープンイノベーションを成功させるためには、下記の3点を押さえるようにしましょう。
- 形式だけにならない
- ビジョン目的を明確にする
- 担当者を固定する
形式だけにならない
「他社の技術を取り入れよう」「自社技術を広く提供していこう」という戦略を打ち出すことは、どの企業もできます。具体的に戦略や実施手順を策定して実行していくことが重要になります。
ビジョン目的を明確にする
ビジョンを持たないと、成果が得られなかったり、時間や費用を無駄に消費してしまいます。また、自社の技術が不用意に流出してしまうきっかけにもなりかねません。将来の企業ビジョンを明確にした上で実施するようにしましょう。
担当者を固定する
オープンイノベーションは他社と連携しながら実施します。コストコミュニケーションが増えないよう、担当者を固定しましょう。信頼関係も構築しやすくなり、コミュニケーションを円滑にできます。
日本におけるオープンイノベーションの事例
近年は海外企業との競争で勝ち抜くために、日本国内でも大手企業を中心にオープンイノベーションが広がりつつあります。代表事例について、確認していきましょう。
東レ・ユニクロ
繊維メーカーの東レとアパレルメーカーのユニクロは、オープンイノベーションを通じて「ヒートテック」「ウルトラライトダウン」といったヒット商品の開発に成功しました。両商品は現在も根強い人気を誇っています。
参考:【ユニクロ×東レ】モノづくりの、その先へ。LifeWearで世界を変える「共創力」
P&G
大手消費財メーカーのP&Gは、ポテトチップスの「プリングルズ」の売上が低迷していた際、ポテトチップス1枚ずつに「インクジェットプリンター」を使ってキャラクターを描くアイディアを打ち出しました。この際、社内の技術ではキャラクターを描くことが難しいと判断され、外部機関の技術をオープンイノベーションで導入しました。
この結果、イタリアの大学教授が開発したインクジェットプリンターを活用して、ポテトチップスにキャラクターを描くことに成功しました。その後、プリングルズの売上は回復して、売上低迷から脱出することができました。
ソフトバンクグループ
ソフトバンクグループは、2019年に「ONE SHIP」と呼ばれるビジネスパートナープログラムを開始しました。ONE SHIPでは、オープンイノベーションを加速させるために外部企業へ情報交換・パートナー探しの場を提供しています。ソフトバンクグループが主催しているプログラムではありますが、参加企業同士が横のつながりを持つことでき、日本企業のオープンイノベーションを促進する場ともなっています。
まとめ
オープンイノベーションは、保有している技術・知識を他の企業に提供したり、反対に外部企業から提供されることでイノベーションを起こしていく概念です。日本企業は、欧米企業と比べるとまだまだ浸透していない状態です。
しかし、大手日本企業を中心にオープンイノベーションに取り組む企業も徐々に増えてきました。自社でもオープンイノベーションを活用して、積極的に技術・知識導入を進めていきましょう。
参考:オープンイノベーションの成功事例を紹介!日本企業での活用例
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