2025年7月15日、株式会社リーディングマークによって開催された「ミキワメユニバーシティ プレミアムサミット in Osaka 2025」において、「コミュニケーションとデータで育む|事業を伸ばす自社らしいカルチャーの根づかせ方」と題したトークセッションを実施しました。講演要旨は次のとおりです。
■登壇者 ・リュウ シーチャウ 氏(株式会社サニーサイドアップ 代表取締役社長) ・石原 千亜希 氏(株式会社マネーフォワード 取締役執行役員グループCHO DEI担当) ■モデレーター ・飯⽥ 悠司 氏(株式会社リーディングマーク 代表取締役社⻑) |
カルチャーは誰が育てるのか・育むのか
ー マネーフォワードさんでは、どのようなカルチャーを育んでいきたいのかを明確に言語化されていますよね。
石原:そうですね。一般的には「カルチャー=企業文化」と一括りにされることが多いですが、私たちはあえて「Values」と「Culture」に分けています。
Valuesは、社会に対して私たちが約束する“行動指針”のようなもの。一方Cultureは、社内のメンバーが日々の業務やコミュニケーションの中で体験する“空気感”や“行動様式”として位置づけています。
数ある要素の中でも、最上位に置いているのが「User Focus」です。
スタートアップである私たちは、社会に新しい価値を届けることを最も大切にしています。そのため、「ユーザーにとって本当に良いものを届ける」という姿勢を中心に据えているんです。

登壇者:株式会社マネーフォワード 石原 千亜希 氏
CultureとValues、それぞれの役割
ー CultureとValues、それぞれをもう少し具体的に教えていただけますか?
石原:Valuesは、「User Focus(ユーザーフォーカス)」や「Fairness (フェアネス)」のように、外部に対して私たちがコミットしていく価値観や行動指針です。社会やお客様に対してどう在るべきかを示すものですね。
一方Cultureは、社内で日々働く中でメンバーが意識する行動様式や雰囲気を指します。たとえば「Teamwork」、そして「Fun(楽しさ)」があります。もちろん仕事は楽しいことばかりではありませんが、その中でも楽しむ姿勢を持つ、これを大切にしています。
なお直近では、2023年に新しい要素として 「Evolution(進化)」 を加えました。これは「User Focus」をより高いレベルで実現していくために、社員一人ひとりが常に進化し続ける必要があると考えたからです。
なぜカルチャーは重要なのか?
ー 根本的な質問ですが、そもそもなぜカルチャーは大事なのでしょうか?
石原:ごく少人数の会社であれば、カルチャーを明文化していなくても何とかなるかもしれません。「これがうちのカルチャーだよね」と、わざわざ全員で確認しなくても自然に共有できる可能性はあります。しかし、組織が大きくなるにつれて「どの方向を目指すのか」「何を大切にするのか」という認識は、少しずつズレていくものです。
マネーフォワードではミッションを非常に重視しています。掲げているのは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」という壮大なミッションです。法人向け・個人向けの両方にサービスを提供しており、ユーザー層は非常に幅広い。つまり、お客様が多様ということです。
そうなると、働く側も同じく多様である必要があります。ここで言う多様性は、性別や国籍といった属性だけでなく、経験や考え方などのバックグラウンドも含みます。
事業を成長させるためには、この多様性が不可欠。ただし、多様性があるだけでは方向性がバラバラになってしまいます。そこを一つにまとめ、同じ方向へと進ませるのがカルチャーであり、ミッションの役割だと考えています。
数名規模の会社であれば熱量だけで突き進めるかもしれません。しかし、ある程度の規模になると、全員が長期的なゴールに向かって一丸となるために、明確なカルチャーが不可欠だと感じています。

大企業におけるカルチャー事例
ー リュウさんは、P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソン、レノボといった大企業に在籍されたご経験がありますよね。こうした大企業のカルチャーについて事例を伺いたいと思います。
リュウ:まずはP&Gのカルチャーについてご紹介します。特に印象的だったのは、グローバルCEOから新入社員まで、誰もが共通して口にする「Consumer is Boss(消費者がボス)」という言葉です。これは単なるスローガンではなく、重要な意思決定の場でも必ず登場します。
例えば、社長やディレクターが会議の最後に議論をまとめる場面で、ジュニア社員に「消費者は何と言っていますか?」と必ず尋ねます。ここで求められるのは、「安くしてほしい」「もっと大きくしてほしい」といった表面的な要望ではなく、消費者の生活を本質的に良くするためには何が必要か、という深い視点です。
その答えを軸に意思決定が行われる姿勢を、インターン時代から何度も目の当たりにしました。

登壇者:株式会社サニーサイドアップ リュウ シーチャウ 氏
P&Gの上位職ほど現場に出るカルチャー
リュウ:もうひとつ感銘を受けたのは、消費者リサーチに対する徹底ぶりです。多くの企業では、役職が上がるほど現場に出る機会は減り、部下からの報告を受けるだけになりがちです。
しかしP&Gでは逆に、役職が高い人ほど何時間もかけて現場に足を運び、直接消費者の声を聞きに行きます。この「消費者を大事にする」姿勢がカルチャーとして本気で根づいている点がP&Gの魅力であり、この文化が私はとても好きでした。
世界中で同じサービス品質を実現する「海底捞」
リュウ:次にご紹介したい会社は、中国の火鍋チェーン「海底捞(ハイディラオ)」です。海底捞は香港に上場し、日本にも数店舗展開しています。赤い看板が目印で、日本を含めシンガポール、香港など世界各地に出店しています。
これまでに世界中の海底捞を10数店舗訪れましたが、どの店舗でも驚くほどサービスの質が高いんです。日本のおもてなしが「丁寧な言葉づかい」や「品物の扱いの丁寧さ」に重きを置く傾向があるのに対し、海底捞は少し異なります。従業員の多くは中国人で、言葉づかいが特別に丁寧なわけではありませんが、とにかく「お客様をよく観察している」のです。
例えば、火鍋を食べていると鍋の湯気で髪が乱れることがありますよね。すると、店員さんがすぐにヘアゴムを差し出して「髪を結びますか?」と声をかけてくれます。また、携帯に油がはねれば、後ろからさっと画面クリーナーを差し出してくれる。
こうした対応は、おそらくマニュアルに細かく書かれているわけではありません。店員一人ひとりがその場の状況を見て、自ら判断し行動しているのです。
このカルチャーが、世界中の店舗で驚くほど再現されています。どの国でも同じ体験ができるのは本当に素晴らしく、「どうやってこのカルチャーを作ったのか」をいつか聞いてみたいと思っています。
ー 興味深いお話をありがとうございます。本イベントの次回開催はまだ未定ですが、その際にはぜひ海底捞さんにご登壇いただけるよう、お声がけしたいと思います。

最後に
ー 最後に、お二方から会場の皆様へ一言ずつメッセージをいただき、この会を締めくくりたいと思います。
石原:カルチャーは一朝一夕に変わるものではありません。ですが、日々の行動や発言の積み重ねによって、確実に形づくられていくものだと強く感じています。
私が入社した当初、役員やメンバーがカルチャーについて言葉で語ることはあまりありませんでした。しかし、役員全員が行動や発言でカルチャーを体現し始めると、メンバーにも伝わり、少しずつ行動変容が生じ始める──そんな光景を実際に目にしました。時間はかかりますが、組織は確かに変えていけるのです。
一方で、将来を見据えてしっかりと方向性を示さなければ、会社が望ましくない方向へ進んでしまうリスクもあります。だからこそ、経営層や人事の皆さんには「これは本当に会社のためになる」と心から確信を持ってカルチャーの定着を進めていただきたいと思っています。
リュウ:経営者の立場から見ると、売上や利益は毎日追っていても、「カルチャーがいくら貢献したか」という数字は見えません。
しかし、これまで複数の会社を経営してきた経験から、カルチャーの有無によって成果に大きな差が生まれることを痛感しています。だからこそ、経営者の皆さんには「目に見えない資産」をいかに構築するか、その重要性を忘れないでいただきたいのです。
もし現状そこにリソースを割けていない、あるいは自社のカルチャーが明確でないと感じるようなら、ぜひ優先度を上げて取り組んでほしいと思います。
