用語集

スイスチーズモデルとは?活用方法や事例について解説

医療業界や製造業界のように、安全対策が重視されている業界を中心に活用されているのが「スイスチーズモデル」です。

リスク管理に携わる方であればぜひ覚えておきたいモデルといえますが、モデルの全体像が把握できず、わかりやすく説明されている情報源をお探しの方もいらっしゃるのではないでしょうか。 そこで本記事では、スイスチーズモデルをできるだけわかりやすく解説すると共に、モデルの活用方法や事例を紹介していきます。

スイスチーズモデルとは

スイスチーズモデルとは、視点の異なる対策を何重にも組み合わせれば、事故やトラブルの発生リスクは軽減可能だとする考え方です。

上記の画像を見るとイメージできるように、スイスチーズの内部には、多数の穴が空いています。
穴の空き方が異なるスイスチーズを重ねると貫通しにくくなることから、「事故やトラブルも複数の対策を講じれば未然に防げる」という考えに至ったのが、スイスチーズモデルの原型です。

スイスチーズモデルは、イギリスの心理学者「ジェームズ・リーズン」によって提唱されました。
本モデルにおいては、完璧な防護壁(=対策)は存在しないと認識したうえで、個々の防護壁が正しく機能するよう監視していくことが重要とされています。

参考:
スイスチーズモデルとは – コトバンク
チーズの穴は事故のもと!?安全対策の考え方「スイスチーズモデル」とは|ものづくりの現場トピックス | キーエンス

スイスチーズモデルで穴になる要因

スイスチーズモデルでは、問題点である穴を複数の対策によって防ぐ重要性を説いています。
穴(=問題点)になる要因としては、主に以下の3点が挙げられます。

  • ヒューマンエラー
  • 企業独自の風土
  • 機械の不具合や故障

それぞれ詳しくみていきましょう。

穴となる要因1:ヒューマンエラー

ヒューマンエラーとは、人間によって引き起こされたミスや失敗のことです。
たとえ安全策を講じていたとしても、人為的なミスによって危険が生じることがあります。

日頃から気をつけていても、社員の体調やモチベーションによっては予期せぬミスが発生することもあるでしょう。キャリアの長い社員だからと安心して業務を任せていると、思い込みや見落としによって意図せず危険を招くことも考えられます。

穴となる要因2:企業独自の風土

適切な安全対策を講じていなかったり、責任の所在が不明確であったりするなど、外部では知られていない企業独自の風土が事故やエラーの要因になる場合もあります。

マネージャーが部下に対して高圧的な態度で接すれば、部下は萎縮して業務に取り組むことになり、精神的な焦りや余裕の無さからミスを招いてしまう可能性もゼロではありません。
他にも、トップダウン経営の企業の場合、品質管理への考えが社員間で統一されていないケースもあります。足並みの揃わない状態で品質管理を進めていると、何かのきっかけでトラブルやミスを引き起こしてしまうでしょう。

穴となる要因3:機械の不具合や故障

製造業や医療業界に限らず、ほとんどの業界では機械を利用して事業を営んでいます。
機械のメンテナンス不足や故障の放置などにより、ときに深刻な事故を引き起こす可能性も考えられます。

最近では、電子データの保管や共有をクラウド上で行なう企業も増えてきています。しかし、セキュリティ対策が甘いと悪意を持った第三者に侵入され、顧客情報や会社の機密情報が漏洩するリスクがあるため、セキュリティ対策には細心の注意が必要です。

参考:チーズの穴は事故のもと!?安全対策の考え方「スイスチーズモデル」とは

スイスチーズモデルの穴を防ぐ対策

スイスチーズモデルでは、問題となる穴ができるだけ発生しないよう、事前対策を徹底することが重要とされています。
ここでは、穴の発生を未然に防ぐ方法を2つ紹介していきます。

フールプルーフを仕掛ける

フールプルーフとは、誤った操作や取り扱いができないようにあらかじめ予防策を講じることです。
例えば、機械の設定変更時に確認ボタンが表示されるようにしておくことや、複数の鍵を使わないと機械が操作できないようロックをかける仕組みが挙げられます。

どれほど安全対策を徹底していても、人為的・機械的なミスは予想に反して発生することがあります。フールプルーフを仕掛けておけば操作ミスなどが危険に直結しないため、事故やミスを未然に防ぐことが可能です。

ヒヤリ・ハット事例を社内で共有する

ヒヤリ・ハットとは、重大事故・災害を引き起こしていた可能性の高いものを意味します。事故にはならなかったものの、「ひやりとした」「はっとした」状態になった事例をヒヤリ・ハットと呼び、安全対策を考えるうえでヒヤリ・ハットは見過ごせないトラブル要素といえるでしょう。

ヒヤリ・ハット事例を社員間で共有できれば、どのようなときにミスが発生しやすいか、どうすればヒヤリ・ハットを未然に防げるか議論する機会を設けられます。
会社全体のヒヤリ・ハット事例を集められれば、安全対策の重点箇所も見える化し、効率的な安全対策が実施できるでしょう。

参考:
安全衛生キーワード|厚生労働省
ヒヤリ・ハット事例を共有して重大事故を削減!

スイスチーズモデルを情報セキュリティ強化に活用する場合

スイスチーズモデルを活用すれば、企業における情報セキュリティ対策も強化可能です。
具体的な方法としては、以下の対策を複数組み合わせることで効果的なセキュリティ対策を目指します。

  • セキュリティ対策ソフトの導入
  • 社員へのセキュリティ研修を実施
  • OSやソフトウェアを常に最新の状態にしておく
  • パスワードの強化
  • 通信機器の共有設定の定期的見直し

それぞれの対策を詳しくみていきましょう。

セキュリティ対策ソフトの導入

セキュリティ対策ソフトを導入すれば、サイバー環境の安全性を一定程度保つことが可能です。

ただし、セキュリティ対策ソフトだけでは十分な対策とはいえません。セキュリティを脅かすマルウェアは常に進化し、企業や個人のデータや情報を狙っています。そのため、セキュリティソフトだけでは防げないサイバー攻撃もゼロではありません。

セキュリティ対策ソフトの導入と同時に、他の対策も併せて行なうよう心がけましょう。

社員へのセキュリティ研修を実施

情報セキュリティ対策はソフトや特定の社員に任せるものではなく、社員全体で取り組むべき問題です。社員のITリテラシーの底上げを図るためにも、セキュリティに関する研修や講座を積極的に開催していきましょう。

新型コロナウイルスの流行に伴い、リモートワークで働く会社員が増えたため、社員が私物のパソコンから社内ネットワークにアクセスする機会も多くなりました。
社員ひとりひとりのITリテラシーを高めておくことで、セキュリティの穴を可能な限り減らす取り組みが大切です。

OSやソフトウェアを常に最新の状態にしておく

OSやソフトフェアが古いままだと、脆弱性を悪用したウイルスに感染する恐れがあります。
アップデートには意味があり、常に最新の状態にしておくことでセキュリティの穴を少なくできます。

OSやソフトフェアのアップデートには時間がかかるため、つい後回しにしてしまうこともあるでしょう。
しかし、一度ウイルスに感染すると対処に膨大な時間を割くことになるため、社内のパソコンは常に最新のアップデートにした状態を維持するよう心がけてください。

パスワードの強化

簡単なパスワードだと、第三者に特定されやすくなります。英字、数字、記号などを複雑に組み合わせることで、パスワードが短時間で解析されないよう対策しておきましょう。

他のサイトやシステムで使っているパスワードを使い回さないよう、会社全体で徹底していきましょう。また、定期的な変更を促す注意喚起も忘れずに行なってください。

通信機器の共有設定の定期的見直し

共有設定が甘いと、通信機器を社外に持ち出すタイミングでウイルスの脅威にさらされる場合があります。
できるだけ社外に持ち出さない環境づくりが重要ですが、クライアントとのやり取りなどでどうしても持ち出さないといけない場合もあるでしょう。

社外へ通信機器を持ち出す場合は、通信機器を持ち出す際のルールをあらかじめ決めておき、社員への遵守を徹底させることが大切です。
通信機器だけでなく、ウェブサービスやクラウドについても同様です。

誤って第三者に社内の機密情報を共有しないように、共有設定は厳しくチェックしましょう。

参考:「スイスチーズモデル」とは?安全な情報セキュリティのための考え方

組織事故におけるエラーの種類

組織で発生する事故には、「即発的エラー」と「潜在的エラー」の2種類に分けられます。
ここでは、即発的エラーと潜在的エラーの特徴を解説します。

即発的エラー

事故の直接的な原因になるのが、即発的エラーです。即発的エラーには、ヒューマンエラーだけでなく、システムや設備によるエラーなども含まれます。

即発的エラーが発生するのは、事故に繋がる可能性の高いもの(=ヒヤリ・ハット)が組織内に存在するためです。
ヒヤリ・ハットで留まっていたケースが表面化し、事故や災害に繋がってしまった状態を、即発的エラーと呼びます。

潜在的エラー

スイスチーズモデルにおいては、問題点であるチーズの穴にあたるのが潜在的エラーを意味し、穴を通り抜けて問題が発生した状態を即発的エラーとみなしています。

言い換えると、即発的エラーは潜在的エラーが顕在化したものといえます。ミスや失敗は基本的に単発で発生するわけでなく、複数のエラーが連鎖することで表面化していく特徴を持ちます。

参考:
スイスチーズモデルで組織事故を考える | リスクの眼鏡
スイスチーズモデルとは~ヒューマンエラーと組織事故のモデル

スイスチーズモデルの事例

スイスチーズモデルの考えを採用し、活用する業界は多岐にわたります。活用イメージを持つために、具体的な事例を知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、ここでは医療業界と製造業界の事例を紹介していきます。

医療業界におけるスイスチーズモデル

医療業界における防護壁は、患者情報を正しく管理し、複数の安全策をとり、適切な処置を行なうことです。
しかし、それらの防護壁がうまく機能せず、事故が発生した事例があります。

1999年、横浜市立大学医学部附属病院にて、患者の取り違え事故が起きました。
手術室へ患者を引き渡すタイミングで取り違えが発生し、そのまま麻酔と手術が行なわれてしまいました。

患者の確認が適切に実施されず、複数のチェックポイントをすり抜けた結果、予期せぬ医療事故が生じたのです。
まさか患者を取り違えないだろう、という油断が引き起こしたヒューマンエラーといえるでしょう。

横浜市立大学医学部附属病院は、不十分な引き継ぎ運用システムや、患者を確認する手順・方法の曖昧さ、安全策の少なさなどを原因として挙げました。
医療業界では人命を危険にさらす恐れがあるため、スイスチーズモデルを理解し、正しく活用する必要があります。

引用:医療事故の概要

製造業界におけるスイスチーズモデル

製造業界での防護壁は、ヒューマンエラーや事故を防ぐ手順を決めるといった安全対策を行なうことです。
安全柵や安全対策機器を設置したり、安全に関して組織的に取り組んだりする必要があります。

例えば、加工装置での事故を防止するために、加工装置やその周囲に安全対策装置を取り付けたとします。一見すると対策として十分に思えますが、電源の入れ忘れや、制御設定を間違える可能性もゼロではありません。

安全対策を複数化するためにも、安全装置の作動チェックシートを用意してみると効果的です。
チェックシートの存在を知らない人や、チェック項目漏れがないよう、安全対策は常に改善姿勢を持って取り組むことが大切です。

参考:
スイスチーズモデルとは~ヒューマンエラーと組織事故のモデル
チーズの穴は事故のもと!?安全対策の考え方「スイスチーズモデル」とは|ものづくりの現場トピックス | キーエンス

まとめ

本記事では、スイスチーズモデルについて、活用方法や事例を踏まえて解説しました。

事故やエラーは1つの対策だけでは防ぎきれないため、複数の対策を講じ、問題の表面化を防ぐ意識が大切です。
機械の誤操作が事故に直結しないよう、ロック機能をあらかじめ設けておくフールプルーフの手法や、事故に繋がりそうな事例(=ヒヤリ・ハット)を社内で共有し、対策を設けることで重大事故は予防できます。

スイスチーズモデルを正しく理解し、自社の安全対策を万全に整えていきましょう。

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