最近、ビジネスの現場において「パーパス」という言葉がよく使われるようになりました。
パーパス(purpose)は「目的」を意味する英単語で、ビジネスにおいては「企業の存在意義」という意味で使われています。
耳にすることの多くなった言葉であるものの、ミッションやビジョン、バリューとの区別がつかず、企業経営への活かし方がイメージできない人も少なくありません。
そこで本記事では、パーパスについて、ミッション・ビジョン・バリューとの違いを解説していくと同時に、パーパスを定めるメリットや注意点などを紹介します。
「パーパス」とは何か
パーパスは、「企業の存在意義」という意味で使われます。存在意義とは、「企業がなぜ存在しているのか」という問いに対する答えです。
企業のあらゆる選択や活動は、このパーパスに向かうものでなくてはなりません。
パーパスは企業にとっての原点です。そのため、一度定めたら基本的に変更しません。難しい判断が迫られるときや逆境にあるとき、道しるべのような役割を果たすものがパーパスといえます。
一般的に、パーパスには以下の要素が含まれます。
- 自社らしさ(自社の歴史・想い・強みなど)
- 社会や顧客の生活への影響
- 社内外に共鳴を生み出す内容
具体例として、大企業が定めたパーパスを以下に示します。
企業名 | パーパスの内容 |
ソニーグループ | クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす |
三菱UFJファイナンシャル・グループ | 世界が進むチカラになる |
住友ゴム | 未来をひらくイノベーションで 最高の安心とヨロコビをつくる |
参考:
「パーパス」の意味やミッション、ビジョンの違いとは? 企業事例やパーパスブランディングの定義も解説 _ 人事のプロを支援するHRプロ
パーパスとは 「存在意義」会社が自ら定義_ 日本経済新聞
パーパスとミッション・ビジョン・バリューとの違い
パーパスが「企業の存在意義」だとすると、馴染みのある「ミッション」や「ビジョン」「バリュー」とどのように違うのか、気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それぞれの用語の意味を簡潔に示したものが、以下の表です。
用語 | 意味 |
パーパス | 存在意義:Why(自社はなぜ存在するのか) |
ミッション | 使命:What(何をすべきか) |
ビジョン | 展望:Where(どこを目指すのか) |
バリュー | 行動指針:How(どのように実現するのか) |
それぞれ詳しく解説していきます。
ミッションとの違い
ミッションは、「使命」と訳されるのが一般的です。パーパスの実現に向けてすべきことが、ミッションという位置づけです。
例えば花王グループのミッションは、「豊かな共生世界の実現」です。パーパスが「自社はなぜ存在するのか」というWhyへの回答であるのに対し、ミッションは「パーパスの実現のために何をすべきか」というWhatへの回答だといえるでしょう。
ビジョンとの違い
企業がミッション達成を通じて目指したい理想像を、ビジョンと呼びます。
例えば三菱ファイナンシャル・グループの場合、ビジョンは「世界に選ばれる、信頼のグローバル金融グループ」と定められています。パーパスが「自社はなぜ存在するのか」というWhyへの回答であるのに対し、ビジョンは「どこを目指すのか(Where)」に対する回答といえます。
バリューとの違い
バリューは「行動指針」という意味で使われ、企業がどのようにパーパスを実現するのかを示します。
三菱UFJファイナンシャル・グループの場合、バリューを「信頼・信用、プロフェッショナリズムとチームワーク、成長と挑戦」と定めています。パーパスがWhyへの回答であるのに対し、バリューは「どのように実現するか(How)」への回答といえるでしょう。
パーパスを定めるメリット
パーパスを定めることには、企業にとって複数のメリットがあります。
代表的なメリットは、以下の3点です。
- 適切な経営判断がスムーズにできる
- 従業員のエンゲージメントが高まる
- 社会やステークホルダーから評価される
それぞれ詳しくみていきましょう。
メリット1:適切な経営判断がスムーズにできる
企業の存在意義であるパーパスが定まっていれば、一貫した考えに基づいた経営判断を下せるようになります。
昨今は「VUCA」の時代と呼ばれ、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainly)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の高いのが現代におけるビジネスの特徴です。
将来を明確に見通すことは困難ですが、そのなかで成果を出していくためには、適切な経営判断をスムーズにしていく必要があります。
企業の意思ともいえるパーパスは、企業が進む方角を示す道しるべの役割を果たします。
先行きの見えない時代であっても、明確なパーパスが定まっていれば、判断に迷うことが少なくなるでしょう。
メリット2:従業員のエンゲージメントが高まる
パーパスには、従業員のエンゲージメントを高める効果もあります。
エンゲージメントとは一般的に、従業員による所属組織への愛着のようなものと認識されています。
社会にとって有意義なパーパスが定められていれば、従業員は「自分たちの仕事が社会に貢献している」という自信と誇りを持てるようになり、高いモチベーションのもと業務に取り組めるでしょう。
従業員がやる気を出し、自主性を持って動けるようになれば、組織全体の生産性向上も期待できます。
従業員エンゲージメントを高める方法やモチベーション向上の方法は、以下の記事も参考にしてみてください。
メリット3:社会やステークホルダーから評価される
パーパスでは、自社だけでなく、社会全体にとって有意義と感じられる内容が定められます。
社会的に意義のあるパーパスの実現を目指す姿勢は、社会や社内外のステークホルダー(従業員、株主、顧客など)から共感されやすいため、企業イメージの向上に役立つでしょう。
パーパスが注目されるようになった背景
ビジネスにおいてパーパスが注目されている代表的な背景としては、以下の点が挙げられます。
- 将来を予測するのが難しいVUCAの時代になった
- 社会貢献などを重視するミレニアル世代の存在
- 人材の多様化
予測困難なVUCAの時代と呼ばれている昨今のビジネス環境において、一貫性のある姿勢で企業活動を展開するには、企業の方向性を示すコンパスとしてのパーパスが重要です。
また、現在のビジネス界で重要な役割を果たしているのが、1980〜1995年の間に生まれた「ミレニアル世代」の人々です。彼らはそれまで重視されていた名声や報酬よりも、社会貢献を重視する傾向があります。
ミレニアル世代の人材を惹きつけ、長い期間自社で働いてもらうためには、働く目的や自身の存在意義を感じさせるパーパスの設定が必要となっています。
さらに、グローバル化や価値観の多様化も、パーパスが注目されるようになった要因の一つです。文化的背景や価値観・スキルの異なる従業員達の統一感を高めるために、企業意思であるパーパスを設定する企業が増えています。
参考:「パーパス」の意味やミッション、ビジョンの違いとは? 企業事例やパーパスブランディングの定義も解説 _ 人事のプロを支援するHRプロ
パーパスを定める際にチェックすべきポイント
パーパスは、基本的に企業が自由に設定するものですが、押さえておきたいポイントとして次の5点があります。
- 社会課題の解決につながるか
- 自社に利益をもたらすか
- 自社がすべきことか
- 自社が実現できるものか
- 従業員がやる気を出す内容か
それぞれ詳しく解説していきます。
ポイント1:社会課題の解決につながるか
パーパスの条件の一つとして、社会課題の解決につながるもの、つまり、社会をより良くするものであることが挙げられます。
企業が利益を追求するのは当然ですが、利益だけを求めてしまうと、環境破壊など、社会に害をもたらす結果につながってしまいます。
パーパスは、社会のなかでの企業の存在意義を示すものです。そのため、設定する際は「社会に貢献しうるものであるか」を見定めるよう心がけてください。
ポイント2:自社に利益をもたらすか
パーパスは社会課題の解決につながる内容であると同時に、企業利益を目指したものでなくてはなりません。
社会貢献だけを追求して自社に利益が生まれなければ、どれだけ社会的意義のある事業を展開したとしても、継続は困難です。
社会課題の解決と自社の利益という2つの視点を踏まえ、両者のバランスが取れるようにパーパスを策定するよう心がけましょう。
ポイント3:自社がすべきことか
パーパスは、自社が実施するのにふさわしいものを定めます。
企業それぞれに、創業者の想いやこれまでの歴史、強み、企業文化といったような個性があります。いくら社会的に意義があり、自社の利益を生み出すものであったとしても、自社の強みを活かせないものや企業文化に合わないものは避けましょう。
自社に合わないパーパスを設定すると、これまで培ってきた自社らしさが薄れるだけでなく、従業員のエンゲージメントが低下したり、ステークホルダーが納得しなかったりする可能性があるため、ご注意ください。
ポイント4:自社が実現できるものか
パーパスは、自社に実現可能なものを定めるよう意識してみてください。
ここまで紹介したポイントをすべて満たしても、実現の可能性があまりに低ければ、そのパーパスは現実的に機能せず、単なるきれいごとで終わってしまいます。
実現不可能な内容をパーパスとして掲げてしまうと、従業員の労働意欲は高まらず、ステークホルダーからの共感を得ることも困難です。
ポイント5:従業員がやる気を出す内容か
これまでに紹介した4つのポイントを満たしたら、最後に「自社の従業員が自ら進んで実現を目指す内容かどうか」をチェックしましょう。
経営者や一部の幹部社員だけが望む内容ではなく、全社員が共通して目指したいと思えるパーパスを設定することで、社内全体のエンゲージメントやロイヤリティの向上が期待できます。
パーパスを定めた後にすべき「パーパス・ブランディング」とは
パーパスは、定めるだけでメリットが得られるわけではありません。定めたパーパスは企業全体に浸透させ、実際の活動に反映される必要があります。
そのために必要なのが「パーパス・ブランディング」です。これまでも企業ごとにブランディングは行われてきました。しかし今までは、消費者にとっての価値・メリットにスポットライトが当たっていました。
今後は消費者にとっての価値・メリットに加え、社会にとっての価値・メリットにも目を向ける意識が大切です。
パーパス・ブランディングは消費者だけではなく、従業員を含めたステークホルダーや社会全体に対して行なってみると、より高い効果が期待できます。
パーパスを踏まえた経営やブランディングを実施し、社内外に広く訴求して認知・共感を得ることで、パーパスが本来の役割を果たせるようになります。
まとめ
本記事ではパーパスについて、設定するメリットや押さえておきたいポイントなどを紹介しました。
パーパスは企業の存在意義であり、「その企業がなぜ存在しているか」の回答になるものです。
現在のように将来の予測が難しいVUCAの時代には、企業が進むべき方向を正しく見定めるための道しるべ(=パーパス)が求められています。
ただしパーパスは、企業にとっての利益だけを目指すものではありません。社会をより良くしたいと願う社会的意義を同時に含むことが、パーパス設定のポイントです。
社会にとって有意義なパーパスが定められれば、従業員は自信と誇りを持って仕事ができるようになります。社会やさまざまなステークホルダーからの評価も高まるでしょう。
自社に合ったパーパスを設定し、統一感のある会社づくりを目指しましょう。
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