人的資本経営の最前線を紐解く連続オンラインイベント「人材経営ラボ」。第2回は、株式会社マネーフォワード代表取締役社長の辻庸介氏をゲストに迎え、「マネーフォワード流、急成長の壁を越える組織の作り方」をテーマに、同社の成長を支えた組織戦略や企業文化の醸成について深掘りしました。
本記事では、対談動画の内容を一部抜粋し、要約してご紹介します。
創業期、成長期、成熟期で必要な人材とは?
ー 企業には「創業期」「成長期」「成熟期」というフェーズが存在します。それぞれのフェーズにおいて、必要とされる人材はどのように変化するのでしょうか?
創業期に必要なメンバーの資質でいうと、まず、熱意を持ってチャレンジできることですね。創業直後にいきなり成功することはほぼなく、むしろ失敗の連続です。その中で次につながる光を見出し、前向きに取り組める人が求められます。
また、チームの士気を維持し続けることも大切です。エゴが強すぎたり、ネガティブな発言ばかりする人がいると、チームの雰囲気が悪くなり、組織全体の成長を阻害してしまいます。
実際、マネーフォワードでもそういったケースがありました。その方には契約満了後にチームから離れていただきましたが、チームの「純度」を保つうえで必要な対応であったと思っています。
マネーフォワードの創業メンバーは、ITとファイナンスのプロフェッショナルであると同時に、パーソナリティの面でも優れた人材が揃っていました。特に「負けず嫌いで、失敗しても成功するまでやり続ける」という気概を持つメンバーが多かったことが、大きな強みになったと感じています。
ー 成長期に入ると組織の規模が大きくなり、求められる人物像も変化すると思います。その点についてどのように対応されましたか?
企業の成長に伴い、いくつかの「壁」がありました。特に難しかったのは、従業員が100人前後になったタイミング、上場前後、そして急成長期です。
創業当初は、私自身がメンバーと直接コミュニケーションを取ることで、スムーズに情報共有ができていました。しかし、組織が大きくなるにつれ階層構造が生まれ、意思疎通が難しくなっていったのです。
そこで必要になったのが、マネージャー層の育成と、人事評価制度の整備です。組織が大きくなると、「何を基準に評価されるのか」「会社の目指す方向性は何か」といった点を明確にしなければ、メンバーが自律的に動くことが難しくなります。
ー 成長期においては、プレイヤーとして優秀な人材がそのままマネージャーになるケースが多いと思います。しかし、プレイヤーとマネージャーの役割はまったく異なりますよね?
その通りです。創業期は、一人ひとりが成果を出すことが最優先でした。しかし、成長期に入ると、チームを束ねながら一定のルールのもとで成果を出せる人材が求められます。
マネージャーの役割は、「チームをいかにゴールへ導くか」という点に尽きます。そのためには組織の構成や業務の難易度、外部環境の変化などを踏まえ、自分がどのようなスタンスを取るべきかを適切に判断する能力が必要です。
リーダーとして前面に立つべきか、あるいは後方からチームを支えるべきか。この判断を状況に応じて柔軟に行えることが、成長期のマネージャーには求められます。
拡大後も企業文化を維持するための仕組み
ー 企業が拡大する中で、文化を維持し続けるためにはどのような仕組みが必要でしょうか?
ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャーは、間違いなく企業文化の基盤です。ただしそれだけでは不十分で、拡大期には「マネジメント層の強化」が欠かせません。
本部長クラスの採用を進めたことで、マネジメント体制を強化できました。しかし、経験豊富な人を迎える際に難しかったのは、「アンラーニング(Unlearning)」の必要性です。マネーフォワードはフラットな組織で、メンバーが自由に意見を言える文化があります。しかし、これまで外資系企業やトップダウン型の組織で働いてきた人にとっては、この環境が戸惑いの要因となることがあります。
例えば「この仕事をやりなさい」と明示される環境に慣れていると、マネーフォワードのような環境への適応に苦労するケースが多く見られます。逆に、課題設定から自ら取り組める人は非常にフィットします。ハイレイヤーの採用は、私たちも失敗を繰り返しながら学んできました。
また、社内のメンバーが成長し、マネジメント層に昇進するケースもあります。ただし、マネーフォワードは成長スピードが非常に速いため、内部昇進だけでは追いつかない側面も。
そのため、外部からの採用と内部昇進をバランスよく組み合わせる形を取っています。
ー 組織の文化を維持するためには、採用が重要になるかと思います。マネーフォワードではどのような基準で採用を実施しているのでしょうか?
私は、採用時に3つのポイントを重視しています。1つ目は、地頭の良さ。これは仕事をする上での基礎能力にあたります。特に専門性の高い業務では、この点が重要です。
2つ目は、パーソナリティ。特にマネジメント層には、「人のために頑張れるか」という視点が欠かせません。「この人と一緒に働きたい」と思える人間性を持っているかどうかを見極めています。
そして3つ目が、ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャーへの共感です。マネーフォワードの目指す方向と、候補者の価値観が一致しているかを確認します。
例えば「ラーメン屋を開業したい」という夢を持つ人にとって、マネーフォワードは適した環境ではありません。どれだけ優秀でも目指す方向性が合っていないと、成果を発揮することは難しいでしょう。
最後に
ー 最後に、急成長を目指す企業の経営者や人事担当者の方々に向けて、メッセージをお願いします。
私自身、日々悩みながら、そして失敗を繰り返しながら経営を続けています。創業当初から、先輩経営者に多くのアドバイスをいただきながら学び、今日まで歩んできました。ですので、今日お話しした内容が少しでも皆様のお役に立てるのであれば、それは私が受けた恩を次の世代に引き継ぐことにもなる、と思っています。
とはいえ、私たちも決して完璧ではありません。挑戦と失敗を繰り返しながら、なんとか前に進んでいる状況です。ただ、一つ確信を持っているのは「人が事業のすべて」だということです。
社員一人ひとりが生き生きと働き、成長できる環境を整えることができれば、会社は自然と成長し、社会全体も前に進んでいきます。皆様も、ぜひそれぞれの組織において、「人材の可能性を最大限引き出す取り組み」を進めていただければと思います。

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