「学習性無力感」という言葉をご存知でしょうか。
学習性無力感とは、ストレスに長くさらされるなかで、自分を無力だと感じてしまい、ストレスから脱するために行動する意欲を失ってしまう状態です。
本記事では、このような学習性無力感が起こる原因や危険性、予防方法などについて解説します。
学習性無力感とは
学習性無力感とは、自分の行動を無意味だと考え、行動への意欲が湧かなくなってしまう状態を指します。
この状態は、以下のプロセスで発生します。
- 大きなストレスにさらされる
- 成果(ストレスの回避)を得るために行動(努力)する
- 成果が得られない
- さらに行動を続ける
- いくら続けても成果が得られない
- 自分の行動が成果に結びつかない無意味なものに感じられるようになる
- 再び行動を起こす意欲がわかない
- そのままひたすらストレスにさらされ続ける
学習性無力感の状態は、本人が自分から「この行動には意味が無い」という判断をくだしているわけではありません。本人が無意識のうちに判断して、行動を避けてしまっている状態です。
確かに、成果に結びつかない行動(努力)を延々と繰り返すことは、生産的ではありません。そのため、人によっては成果が出ない場合にその行動を無駄と判断し、ブレーキをかけるしくみが本能的に備わっている可能性があります。
学習性無力感の発見
学習性無力感は1967年に、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンによって発表されました。そして、イヌを使った以下の実験によって証明されました。
- 電気ショックが与えられる部屋に2匹のイヌを入れる(仮にイヌA、イヌBとする)
- イヌAには、スイッチを押せば電気ショックが止まるようにする
- イヌAは、すぐにスイッチを押して電気ショックを止めた
- イヌBには、スイッチを押しても電気ショックが与えられ続けるようにする
- イヌBもすぐにスイッチを押したが、電気ショックが止まらず、あきらめて何もしなくなってしまった
- 2匹のイヌを仕切りのある部屋に移動させる
- 再び電気ショックを与える(仕切りを跳び越えて部屋の反対側に行けば電気ショックは与えられない)
- イヌAはすぐに仕切りを越えて部屋の反対側に移動した
- イヌBはじっとしたまま電気ショックを受け続けた
この実験の前半でイヌBは、「自分が何をしたとしても、電気ショックは止まらない」ということを学習してしまったとされています。
そのため、別の部屋に移されて状況が変わった(仕切りさえ飛び越えれば電気ショックは止まる)としても、行動する意欲が一切わかなくなってしまったのです。
学習性無力感の危険性
学習性無力感には、主に以下の3つの危険性があります。
- 本人の生産性が落ちる
- 周囲の生産性が落ちる
- うつ病につながることもある
本人の生産性が落ちる
学習性無力感の状態になると、行動する意欲がわかなくなり、生産性が落ちてしまいます。
すると、ますます成果が出にくい状況となり、学習性無力感から抜け出すことができません。
周囲の生産性が落ちる
学習性無力感は、本人だけでなく、周囲の生産性を落とす危険性も指摘されています。「努力しても報われない」という思いを抱えている人がチームにいると、同じチームに所属している人全体にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
場合によっては、ほかのメンバーが学習性無力感に陥ってしまうリスクもあるでしょう。
参考:学習性無力感とは?あなたの職場は大丈夫?従業員を守る方法を解説!
うつ病につながる
学習性無力感はそのまま放置すると、うつ病の発症を招いてしまうこともあります。うつ病になってしまった場合、そのまま仕事を続けることは望ましくありません。
なかには、環境や勤務状況を変えることで継続して仕事ができるケースもあります。しかし、治療のために休職や離職が必要となるケースも多いです。
うつ病は、適切な治療をおこなう必要があり、改善までに半年〜1年程度、場合によってはそれ以上の期間を要するでしょう。
一度うつ病になってしまうと、本人にとっても企業にとっても、一緒に働く同僚にとっても重い負担が発生するおそれがあります。学習性無力感は、うつ病に至る前に改善すべきです。
参考:うつ病で仕事はどうする?症状や休職・診断時の働き方の工夫をご紹介
職場で学習性無力感が発生する原因
学習性無力感は、とくに仕事の場面で発生しやすいです。職場で学習性無力感が発生してしまう代表的な原因を見ていきましょう。
- もともと学習性無力感に陥りやすい人だから
- 教育や指導がうまくいっていない
- パワーハラスメントの横行
もともと学習性無力感に陥りやすい人だから
もともと以下のような特徴・経験を持っている人は、学習性無力感に陥りやすい傾向があります。
- 完璧主義者である
- 生活習慣が乱れている
- 過去の成功体験が少なく自己肯定感が低い
- 過去に人格を強く否定された経験がある
完璧主義者である場合、望んだ結果に少しでも届かなければ失敗と感じてしまう可能性が高いです。しかし実際の仕事の場面では、全てが完璧に進むことはありません。
また、睡眠不足が続くなど、生活習慣が乱れている人も注意が必要です。睡眠不足はメンタルの不調につながりやすいうえ、仕事の効率低下やミスの増加も招いてしまいます。
さらに、過去の成功体験が少なく自己肯定感が低い人や、過去に強く人格を否定された経験のある人も、学習性無力感に陥りやすいとされます。
参考:学習性無力感とは?具体例や無力感の原因、克服方法を紹介|オンラインカウンセリング うららか相談室
適切な教育や指導を受けていない
以下のような状況で、教育や指導をうまく受けていない場合も、学習性無力感を引き起こしやすくなります。
- 基本的な仕事の進め方や、成果につながる方法を教わる機会が十分にない
- 上司に叱責されるだけで、具体的に「何をどう改善すれば良いのか」をアドバイスしてもらえない
- 「何をどうすべきか」の教育・指導が十分にされないまま、成果だけが要求されている
このような状況では、「自分の努力は成果に結びつくのだろうか」という不安を抱えたまま仕事をする人が増えてしまいます。
成果までの道筋が思い描けている場合、少々うまくいかないことがあっても希望を持って仕事に取り組むことができます。
しかし、自分の努力が成果に結びつくことに確信が持てないままでは、仕事へのやる気を持つことが難しくなってしまうでしょう。
参考:学習性無力感とは?具体例や無力感の原因、克服方法を紹介|オンラインカウンセリング うららか相談室
パワーハラスメントの横行
パワーハラスメントの横行も、学習性無力感を発生させる原因となります。人格を否定されたり、粗探しをして否定的な言葉をかけられたりすることが続くと、「努力してもどうせ認められない」という思いが強くなるでしょう。
実際には成果に向けて前進していたとしても、それ以上努力を続けることが難しくなってしまいます。その結果、いつまでたっても成果が出ない状況に陥ってしまうでしょう。
パワーハラスメントに良い点は何もないため、早急に改善しなくてはなりません。
参考:学習性無力感とは?具体例や無力感の原因、克服方法を紹介|オンラインカウンセリング うららか相談室
学習性無力感の発生を予防する方法
では、学習性無力感を発生させないためにはどうすれば良いのでしょうか。
ここからは、学習性無力感発生を予防する方法、学習性無力感に陥ってしまった場合に抜け出す方法を紹介します。
- 自分の努力と結果の関係を見直す
- 最初から完璧を目指さない
- 自分以外の失敗原因も視野に入れる
- できたこと・成長した点に注目する
- 困難な仕事・時間のかかる仕事は小さなステップに分ける
- ほかの人に相談してみる
- 伝記を読む・うまくいっている人の話を聞く
自分の努力と結果の関係を見直す
まず自分の努力が、結果にどのような影響を与えているのか見直してみましょう。自分の努力の成果が実感できていないだけで、実は成果につながっている可能性があるからです。
たとえば、自分がSNSを使った情報発信を任されていたとします。店舗で直接お客さまと接する機会がなければ、自分の努力がどう成果につながっているのか実感しにくいはずです。
しかし、実際にはSNSを使った情報発信がきっかけで商品を手に取ったお客様がいるかもしれません。このように、成果へのつながりが直接見えにくい業務もあります。
どのような業務であっても、成果に対してどのような影響を与えているのかを、見直すことが大切です。
最初から完璧を目指さない
最初から完璧を目指さないことも大切です。なぜなら、1回で完璧にできるような仕事はほとんどないからです。
ほとんどの人は、試行錯誤を重ねながら経験を積み、仕事ができるようになっていきます。
最初から完璧を目指してしまうと、「いつまでたっても完璧にできない」「自分の努力には意味がない」と思ってしまいがちです。
逆に、「少しずつ上手くできるようにしよう」という気持ちで始めれば、完璧にできなかったとしても、無力感に陥ることはありません。むしろ、少しずつ改善されていくことに自分の努力の成果を感じやすくなるでしょう。
自分以外の失敗原因も視野に入れる
仕事をするうえで、失敗を他人や環境のせいにし、自分の至らない点を改善しないのは望ましくありません。しかし現実には、自分ではどうしようもない要因でうまくいかないこともあります。
失敗を全て自分の責任にして、「努力しても意味が無い」「自分にはできない」と考える必要はありません。
仕事を成功させるために努力は必要ですが、努力したからといって100%成功する保証はなく、タイミングや環境・運に左右されることもあるでしょう。
そういった要素も視野に入れ、失敗を全て自分のせいだと思い詰めないようにしましょう。
できたこと・成長した点に注目する
努力して望む成果が出ていなかったとしても、成果に向けてゆっくりと前進している可能性はあります。結果を急ぎすぎているため、前に進んでいるのに気がつかないだけかもしれません。
求める成果は出ていなくても、途中過程で「できたこと」がいくつもあるのではないでしょうか。無力感を抱いたときには、そのような小さな「できたこと」に注目してみるのも大切です。自分自身の成長が感じられれば、努力が無駄でなかったことに気がつくはずです。
困難な仕事・時間のかかる仕事は小さなステップに分ける
困難な仕事や時間のかかる仕事は、小さなステップに分けるのも良い方法です。なぜなら、ステップが進む度に自分の努力の成果を感じやすいからです。
成果が見えるまでに時間がかかる場合、その過程で「努力している意味がないのではないか」という錯覚に陥ってしまいがちです。
逆に小さなステップに分ければ、仕事が少し進む度に努力の成果が実感でき、より意欲を持って次のステップに進めるでしょう。
ほかの人に相談してみる
学習性無力感に陥ってしまいそうなときは、ほかの人に相談してみるのもおすすめです。
多くの人が、成果を出すために苦労をしています。その苦労は、外から見えないものもあるでしょう。
ほかの人に相談した結果、「実は相手も同じ業務で成果が出ていなかった」「自分が思っていた以上に難易度の高い仕事だった」「自分が考え過ぎていた」といった事実に気がつくかもしれません。成果を出すための有効なアドバイスをもらえることもあるでしょう。
また、自分1人で抱えていたときよりも、心が軽くなる可能性があります。
伝記を読む・うまくいっている人の話を聞く
伝記を読んだり、うまくいっている人の話を聞いたりするのもおすすめです。
成功した事実だけが目立つためつい忘れがちですが、成功者と呼ばれる人や有名な人もずっと成功してきたわけではありません。成功以上に失敗を経験している人が多いものです。
そういった人たちの経験談に触れることで、「うまくいかないのは自分だけではない」「今回の失敗も、長期的には大きな成果につながるかもしれない」といった視点を持てるはずです。
まとめ
本記事では、学習性無力感が起こるプロセスや危険性、職場で起きてしまう原因、予防法などを紹介しました。
学習性無力感に陥ってしまうと、本人が苦しいだけでなく、周囲の生産性も落ちてしまうおそれがあります。本記事を参考に、学習性無力感が起こりにくい環境をつくり、予防に努めてください。
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