身元保証書とは、「第三者が、従業員の経歴や素性など身元に問題がないことや、従業員が会社に損害を与えた場合の賠償責任を負うことを保証する書類」です。
身元保証書の提出自体は法律で義務付けられていませんが、雇用トラブル防止の観点から、多くの企業が入社時に提出を求めています。
2020年の民法改正における変更点を反映していない身元保証書は、無効になる可能性があります。そのため、提出を求める企業や担当者は内容を把握しておく必要があるでしょう。
そこで今回は、身元保証書に関して、民法改正による変更点や利用目的などを中心に解説していきます。実務をご担当の方は是非とも参考にしてみてください。
参考:採用アカデミー|【身元保証書とは】身元保証の目的や民法改正による企業がすべき対応を解説
身元保証書とは?
身元保証書とは、「第三者が、従業員の経歴や素性など身元に問題がないこと、従業員が会社に損害を与えた場合の賠償責任を負うことを保証する書類」です。
入社時に提出する書類の一つで、通常は両親や親戚などが身元保証人になり、署名します。身元保証人は従業員の身元を保証するだけではなく、従業員が会社へ損害を与えた際に補償責任を負います。
多くの企業では入社時に提出を求めることが一般的ですが、提出を義務付ける法律は存在しないため、企業によっては不要としているケースも存在します。
身元保証書の期限や効力
一度提出された身元保証書は無期限に効力を持つものなのか、疑問に感じる人もいらっしゃるでしょう。
身元保証について定めている「身元保証に関する法律」によると、期間の定めがなければ3年、最長で5年を契約有効期間としています。
5年以上の有効期間を設定したい場合は、契約更新しなければ効力を持ちません。
身元保証書の契約更新は可能ですが、勤勉な従業員については更新しない企業も多く、あくまで入社時の保証として活用する傾向にあります。
身元保証書と誓約書の違いは?
身元保証書の他にも、入社時の提出書類には誓約書があります。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
誓約書は、入社する人間が就業規則に同意したことを証明する目的で使用されます。
誓約書には身元保証書のように身元や損害賠償などを保証する目的はなく、一般的には以下の内容が記載されています。
- 就業規則の遵守
- 人事異動(配置転換、転勤、出向)の同意
- 機密事項や営業秘密などを第三者に漏洩しないこと
- 業務上必要な個人情報の提供
一方、以下の内容は誓約書への記載が禁止されています。
- 結婚や出産を理由とする退職
- 損害賠償金額をあらかじめ決めること
- 残業や休日勤務の指示に必ず従うこと
- 残業代請求をしないこと
誓約書と身元保証書では、書面を取り交わす目的が異なります。企業側は違いを理解したうえで入社者に提出を求めましょう。
身元保証書の提出を求める目的
企業が身元保証書の提出を求める目的は、以下の3つです。
- 従業員が経歴や素性などの面で問題がないことの保証
- 損害賠償が発生した際の金銭保証
- 緊急連絡先の確保(人物保証)
いずれも会社を適正に運営するためには欠かせない要素です。それぞれの目的を詳しくみていきましょう。
1.従業員が経歴や素性などの面で問題がないことの保証
企業は、面接時の態度や履歴書の情報などでしか従業員について知る方法がありません。「選考を有利に進めるために経歴詐称や素性を偽っているのでは?」と企業側が不安に感じることもあるため、信頼に足る人物かどうか裏付けがあると安心でしょう。
そこで、企業は身元保証書を通じて「対象者は経歴や素性などに問題はない」と第三者から保証してもらうのです。
2.損害賠償が発生した際の金銭保証
2つ目の目的は、従業員が起こしたトラブルなどで損害賠償が発生した際の金銭保証です。つまり、損害賠償の請求先として身元保証人を設定します。
企業はさまざまな損失や損害を被るリスクを抱えています。例えば、「業務中に入手した個人情報や顧客情報を漏洩された」「企業の設備や貸与品を破損された」「会社資金を私的流用された」などです。
こうした損害に対して、従業員の返済能力がない場合や音信不通となった場合などに限り、従業員に代わって賠償責任を負う第三者(身元保証人)が必要になります。
3.緊急連絡先の確保(人物保証)
従業員が病気やケガなどで勤務の継続が困難なときや、突然の無断欠勤で従業員と連絡が取れないときなど、緊急時に連絡を取れる第三者が必要です。
最近では、メンタルの不調や精神疾患による欠勤・休職で、冷静な話し合いをする相手として身元保証人を選ぶケースもあります。
身元保証人を誰にするか
身元保証書の身元保証人は企業が自由に設定できますが、次の条件を求めることが一般的です。
- 収入がある(独立して生計を立てている)
- 仕事をしている
- 成人している
- 犯罪歴がない
上記の条件を満たせば、両親や配偶者、親戚、兄弟姉妹だけではなく、友人や知人でも身元保証人になれます。
そのため、身元保証人を2人設定する場合は「1人は親族、もう1人は独立して生計を立てている友人」と指定する人も少なくありません。
身元保証書のテンプレート
身元保証書には定型書式がありません。利用頻度の高い書類なので、自社に所定用紙がない場合は、インターネット上のテンプレートなどを参考に用意しておきましょう。
参考までに、最低限必要な記載内容は次のとおりです。
【従業員本人】
- 提出日または入社日
- 現住所
- 氏名と印鑑
- 生年月日
【身元保証人】
- 現住所
- 氏名と印鑑
- 従業員本人との続柄
また、本文には次の内容を盛り込みます。
- 入社者が就業規則などの諸規則を守り勤務すること
- 身元保証人は入社者本人と連帯して賠償責任を負うこと
- 賠償限度額
記入の際は、万年筆やボールペンではっきり読みやすく書いてもらいましょう。
参考:エクセライク社会保険労務士法人|入社時の身元保証書で注意すべきポイントは?
身元保証書の民法改正に伴う変更点とは?
2020年4月1日の民法改正によって、身元保証書における損害賠償請求の上限額(極度額)の記載が義務化されました。
今回の民法改正は「上限のない賠償額を負担する身元保証人の保護」が目的であり、上限額(極度額)が記載されていない身元保証書は無効となります。
なお、民法改正前に取得した身元保証書には適用されないため、上限額の記載がなくても再取得の必要はありません。
参考:法務省|2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります
身元保証書の限度額はいくらか?
身元保証書の請求限度額は、企業が自由に設定できます。ただし、現実味のない限度額の設定は控えましょう。
あまりにも高額に設定すると、身元保証人が見つからない恐れがあります。かといって、少額に設定すれば企業の損失・損害を補填できない可能性も考えられます。
したがって、身元保証書の限度額は、従業員の業種や業務などを考慮し、適切な金額設定を心がけましょう。記載例としては、「極度額は月給12か月分」「損害賠償請求の上限額は100〜500万円」などが挙げられます。
参考:MichaelPage|入社時の身元保証書とは?知っておくべきお役立ち知識を大公開!
身元保証書に関するQ&A
身元保証書を求めた場合、従業員から「提出を拒否できるか」「代筆は可能か」といった質問を受けることもあるでしょう。
そこでここからは、従業員に身元保証書の必要性を伝えられるように、よくある疑問について回答していきます。
身元保証書の提出を拒否されたら?
身元保証書に法的な提出義務はないため、従業員から提出拒否される可能性もあります。
しかし、以下の場合は、身元保証書の提出拒否を理由に従業員の内定・採用取消や解雇が認められる可能性があります。
- 身元保証書の提出が採用要件としてあらかじめ明示されていた場合
- 就業規則等に身元保証書の提出が採用要件であると明記されている場合
実際に、身元保証書の提出を拒否したことで解雇が有効となった判例もありました(シティズ事件、2003年12月16日東京地判)。
従業員の適格性判断が必要な企業であれば、選考や面接の段階で身元保証書の提出が必須であることを説明しておきましょう。
身元保証書の代筆は可能?
身元保証人が遠方に住んでいる場合、提出期日までに間に合わない可能性があります。このとき、「自分で代筆しても大丈夫かな?」と考える人もいるでしょう。
しかし、身元保証人にあらかじめ了承を取っていたとしても、従業員本人や業者による代筆が明らかになった場合は、有印私文書偽造の罪に問われます。
代筆の対策として、身元保証人の印鑑証明書の添付を義務付ける企業も存在します。やむを得ない事情などで提出期日に間に合わない場合は、事前に相談するよう、従業員へ伝えておきましょう。
身元保証書の「身元保証人」がいない場合は?
従業員の中には、身元保証人がいないケースも考えられます。
例えば、以下の場合です。
- すでに両親が亡くなっている
- 配偶者が専業主婦(主夫)で収入がない
- 頼める相手が外国籍で国内にいない
従業員本人に提出の意思がある場合は、「提出期日を延長する」「条件を満たせば友人や知人でも保証人と認める」など、柔軟に対応してあげましょう。
アルバイトにも提出を求められるか?
アルバイトやパートで働く人に対しても、身元保証書の提出は求められます。採用要件として定めていて、提出を拒否された場合は、提出拒否の理由が配慮すべき事柄でなければ内定・採用を取消することも可能です。
近年、アルバイトやパートが職場における不適切な行動をSNSにアップロードして炎上する事件が後を絶ちません。そのため、不適切な行動を防ぐ目的で、アルバイトやパートに身元保証書の提出を義務付ける企業も増えつつあります。
まとめ
身元保証書は、第三者による「従業員が企業にふさわしい人物であること」「損害賠償責任を本人とともに負うこと」の保証を目的に利用される書類です。近年は、心の不調などで休職する従業員の緊急連絡先を得る手段としても活用されています。
身元保証書の提出有無については、各企業が個別に判断して問題ありません。ただ、提出を求めるのであれば、採用・雇用トラブルなどのリスクを回避し「有事の際に会社を守る書類」として適切な運用が求められます。
身元保証書を有効に活用し、健全な企業運営を目指していきましょう。
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