セクシャルハラスメント(セクハラ)とは「性的な嫌がらせ」を意味する用語です。かなり長い間、社会問題として取り上げられていますが、未だセクシャルハラスメントの予防・対策が十分とはいえません。
本記事では、セクシャルハラスメントの具体例や起こり得る事態、企業が取るべき対策などについて解説します。
セクシャルハラスメントとは
セクシャルハラスメントとは性的な嫌がらせの総称です。男女雇用機会均等法では、セクシャルハラスメントに該当する要件として以下の項目を挙げています。
- 職場・業務と関連する時間に起こる
就業場所に限らず、取引先の事務所・取引先の自宅なども職場に該当する。また業務時間外の宴会や交流も、職務の延長としての性質を有する場合は当てはまる - セクシャルハラスメントを受けた労働者が不利益を被る
労働条件や就業環境が害されるなどの事態が起こった場合に該当する - 性的な言動である
相手との関係性(上司、同僚・取引先)や性別などに関係なく、性的な言動はセクシャルハラスメントに該当する
職場でセクシャルハラスメントが発生した疑いがあれば、要件に該当するか確認・検討が必要です。労働者には、雇用形態に関係なくすべての従業員が含まれます。そして同性同士・女性から男性に対する性的な言動も、要件を満たせばセクシャルハラスメントとなります。
参考:
コトバンク セクシュアルハラスメント
京都府 雇用の分野におけるセクシュアルハラスメント
男女雇用機会均等法 e-Gov法令検索
セクシャルハラスメントの具体例
セクシャルハラスメントは大きく以下の2種類に分かれます。
- 対価型セクシャルハラスメント
- 環境型セクシャルハラスメント
それぞれの特徴と該当する行為の具体例を紹介します。
対価型セクシャルハラスメント
対価型セクシャルハラスメントとは、何らかの対価を条件とする行為です。労働者に対する裁量権を有する上司や役員によって行われるケースが多いです。
対価型セクシャルハラスメントに該当する行為の具体例は以下の通りです。
- 昇給・昇格の対価として性的な関係を要求する
- 契約を締結する対価として性的な関係を要求する
- 採用の条件として性的な関係や性行為を示唆する
- 性的な嫌がらせや関係に対する労働者の抵抗・拒否を理由に、降格や減給などの不利益を与える
- 性的な関係の要求を拒否されたことを理由に、労働者を意図的に無視する
直接的な要求だけでなく、あくまで示唆する程度にとどめ、労働者側のアクションを促すケースも多いです。
環境型セクシャルハラスメント
環境型セクシャルハラスメントとは、性的な言動や環境要因が理由で、労働者の就業環境が害されるものです。
環境型セクシャルハラスメントに該当する行為としては、以下のような具体例があげられます。
- 相手が承諾していない中で身体を触る(上司や先輩という立場の人が行うケースが多いですが、同期の間でも珍しくありません)
- 恋愛経験や性行為の経験人数など、性的な内容の話を無理に聞き出そうとする
- 性的な内容の話について、別の従業員や取引先に意図的かつ無断で流布する
- 肌の露出や身体のラインが出る服の着用を強要する
- ヌードポスターや卑猥なイメージの画像など、業務に関係ないものを掲示して苦痛を感じさせる
また、性別によるイメージ・先入観に関する質問もセクハラに該当するケースがあります。たとえば、未婚・子供のいない女性に出産の予定を聞く、「男のくせに」「女のくせに」といった内容です。
ただし人事などの担当者が、業務について検討するために必要な範囲内で結婚・出産の話を聞くことは問題ありません。
参考:厚生労働省 雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために
セクシャルハラスメントが原因で起こり得る事態
セクシャルハラスメントは企業に悪影響を与えるリスクが非常に高いです。セクシャルハラスメントが原因で起こり得る事態として、以下が挙げられます。
- 企業イメージの低下
- 社員の苦痛・離職
- 生産性の低下
企業イメージの低下
セクシャルハラスメントが対外的に明らかになれば、企業イメージの低下につながるおそれがあります。
企業イメージが低下すれば、取引先や株主をはじめとした関係者からの信頼を損なうことになり、取引・投資が減って事業面でダメージを受けるリスクもあるでしょう。また、新規顧客・取引先を獲得しにくくなってしまいます。
また、採用面での悪影響も考えられます。セクシャルハラスメントのトラブルが起きた企業を信頼できず、求職者が応募を避けるのは自然です。そのため採用で苦戦するおそれがあるでしょう。
社員の苦痛・離職
セクシャルハラスメントは、社員の苦痛や離職にもつながる要因です。
被害を受けた労働者は、当然不利益や不快感を覚えます。モチベーションの低下だけでなく、セクハラ行為によるストレスが原因でメンタルの病気を引き起こし、離職するケースも十分に考えられます。
また、セクシャルハラスメントによって苦痛を感じるのは、被害者だけではありません。周囲の社員も不快な思いをするでしょう。セクハラ行為への不安や会社への不信感などから、他の従業員の離職も増えやすくなります。
生産性の低下
セクハラ行為の被害者や周囲の従業員は、業務へのモチベーションが低くなりがちです。業務に集中できなくなる、意欲的な姿勢でなくなるなどの結果により、生産性が低下するおそれがあります。
また、セクシャルハラスメントへの対処にはかなりの時間と労力が必要です。セクハラ行為に該当するかの確認や被害者のケア、職場環境を整えるなど、さまざまな作業が発生します。コア業務に割けるリソースが小さくなるため、生産性が下がってしまうのです。
セクシャルハラスメントの判断は難しい
「セクシャルハラスメントとは」の章で解説したように、セクシャルハラスメントに該当するかどうかの基準は存在します。該当する行為がたとえ一回であっても、厳格に対処しなければなりません。
しかし実際のところ、セクシャルハラスメントの判断は難しいケースが多いです。その原因として、以下のような理由があげられます。
- セクシャルハラスメントと感じる行為が人によって異なるため:何をセクハラ行為と感じるかは人によって異なります。また同じ行為でも、相手との関係性や状況によって感じ方が変わるケースが多いです
- 正確な情報を集めることが難しいため:セクシャルハラスメントに該当するかを判断するには正確な情報が必要です。しかし被害者・加害者・第三者で意見が違う、証拠が残っていないなどにより、情報を集めにくい可能性があります
たとえ被害者が不利益を訴えていても、嫌がらせとして嘘をついている可能性や、実際にはセクハラ行為といえないケースも有り得ます。そのため慎重な判断が必要ですが、上記のような理由により、どうしても難しくなりがちです。
セクシャルハラスメント防止に向けた対策
セクシャルハラスメントを防止するには、社内での適切な対策が必要です。
- セクシャルハラスメントについて社員に周知する
- 社員が相談しやすい体制を作る
- 迅速な処置を行えるよう用意する
これらは男女雇用機会均等法11条で明記されている内容です。それぞれ詳しく解説します。
セクシャルハラスメントについて社員に周知する
セクシャルハラスメントについての周知は必要不可欠です。どのような行為がセクハラに該当するか、そしてセクハラを許さない方針を、すべての社員に明確に示す必要があります。セクハラを防止するための啓発や、セクハラ行為が発覚した際の処罰内容なども周知しましょう。
セクシャルハラスメントの周知に際して、社内研修を実施する企業が多いです。社内全員の研修だけでなく、管理職や一般社員など階層別研修の一環として取り入れるケースもあります。また万が一セクハラが起きてしまった際、再発防止のためにも研修が効果的です。
処罰の内容については、就業規則への明記が必要です。ほかにも社内ホームページや社内報などを使って周知を行う方法もあります。
社員が相談しやすい体制を作る
社員が相談しやすい体制の整備も、セクシャルハラスメント対策として非常に重要です。被害を受けた労働者がすぐに声を上げられるよう、以下のような仕組みを作りましょう。
- セクハラ行為について相談できる窓口の設置
- 窓口の担当者が、相談内容に応じて適切に対応できるような状態の整備。セクハラに関する広い範囲の相談が可能な状態。
セクハラに関する相談窓口が存在しても、実際は機能していないのであれば意味がありません。必要な時に相談窓口の担当者がすぐに対応できるよう指導すべきです。必要に応じて、外部機関に窓口対応を委託しても良いでしょう。
迅速な処置を行えるよう用意する
セクシャルハラスメントが発生してしまった場合に、迅速な処置を行えるような用意も欠かせません。
セクハラ行為に対しては、以下のような対応が求められます。
- セクハラと疑われる行為について事実関係の確認
- セクハラ行為が事実として確認できた場合、被害を受けた従業員に対する迅速かつ適切な措置(心身のケアや就業に関する配慮など)
- セクハラ行為が事実として確認できた場合、加害者に対する処罰などの措置
- セクハラ再発防止のための措置(事実・誤認どちらの場合でも、セクハラの疑いが出た以上は防止に向けた対応が求められる)
迅速かつ適切な措置を行えるよう、制度の策定や人員の整備、取るべき対策の明確化などを進めましょう。
参考:厚生労働省 男女雇用機会均等法におけるセクシュアルハラスメント対策について
セクシャルハラスメント加害者に対する処分
セクシャルハラスメントの加害者には、厳格な措置が必要です。懲戒処分の判断をする際は、以下のような基準を用います。
- セクハラ行為の内容
- 場所・回数
- 被害を受けた労働者の状態
- 継続性や反復性の有無・程度
- 加害者の状態(反省しているか、その後どのような対応をとったか)
セクハラ行為の程度や被害者・加害者の状態によっては、懲戒解雇が適切なケースもあります。身体的接触を伴わない、単発・短期的で内容が比較的軽いものでも、出勤停止など何らかの措置は行うべきです。
セクシャルハラスメントは判断が難しいため、措置の内容を決めるのも容易ではありません。入念な情報収集と検討を行ったうえで進める必要があります。
まとめ
セクシャルハラスメントは強く問題視されているにもかかわらず、対処が間に合っていないケースが多いのが現状です。
セクハラ行為は被害者への多大な不利益だけでなく、企業にもさまざまな悪影響を及ぼします。セクシャルハラスメントに対する体制を整備し、迅速かつ適切な措置を実施しましょう。
参考:
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは結局どこから?行為事例と対策|労働問題弁護士ナビ
セクシャルハラスメント(セクハラ)とは? 定義と類型を解説!
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