内発的動機は、社員の自主性や創造性を引き出し、持続的なモチベーションを高めるうえで重要な要素です。
社員の興味や志向に合わせて適切に動機づけをすることで、業務効率化やアイデアの創出が促進され、企業の持続的な成長につながります。
今回の記事では、内発的動機の特性や外発的動機との違い、メリット、動機づけの方法を詳しく解説します。

内発的動機とは?
内発的動機とは、人の内面に起因する動機です。具体的には、興味関心やそこから生まれる探求心や達成感、自己成長などが該当します。
自分の内なる意欲や欲求が行動に結びつくため、行動自体が「目的」となり、モチベーションを持続できる原動力となります。
外発的動機との違い
内発的動機と対照的なものとして「外発的動機」があります。外発的動機は、外部的な要因(報酬となるもの)によって生まれる意欲のことです。
外発的要因は以下の3種類に大別されます。
外発的要因の種類 | 具体例 |
---|---|
金銭的報酬 | 給与ボーナスインセンティブ |
物質的報酬 | 食事券、旅行券休暇パソコンやオフィス設備 |
感情的報酬 | 賞賛や感謝叱責の回避他者に抜きんでる優越感 |
上記からわかるとおり、外発的要因のなかでも「感情的報酬」は内発的要因に近い側面をもっています。
しかし、内発的要因があくまで自己の内面から自然に湧き上がるのに対し、賞賛や優越感は、他者との関係性から生じる感情であり、外発的要因に分類されるのが一般的です。
一方で、外発的要因が内発的要因を生じさせる場合もあります。たとえば、賞賛や感謝の言葉が、自己成長への喜びや達成感を引き出し、内発的な意欲を高めるケースが見られます。
社員のモチベーションを維持・向上させ、企業の持続的な発展を実現するには、内発的・外発的動機の特性や相互作用を正しく理解し、双方を適切に活用・強化していくことが重要です。
動機づけが重要視されている理由
動機づけとは、動機を高める働きかけのことです。適切な動機づけにより、社員は仕事に積極的に取り組むようになり、定着率や生産性の向上を実現できます。
近年、とくに社員の動機づけが重要視されています。その理由として挙げられるのが、社会構造や働き方に対する価値観の変化です。
少子高齢化が慢性的な問題となっている現在においては、社員を単なる労働力ではなく、企業の価値そのものと見なす「人的資本経営」の考え方が注目されるようになりました。
優秀な社員を企業の資本として確保し、パフォーマンスを最大化させるためには、社員の動機(意欲)を強化し、モチベーションやエンゲージメントを向上させるための取り組みが欠かせません。
内発的動機づけを高めるメリット
内発的動機づけを高める主なメリットは以下の3つです。
- 生産性が向上する
- モチベーションの維持・向上につながる
- 新たな価値やアイデアの創出がしやすくなる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
生産性が向上する
内発的動機づけの最大のメリットは生産性の向上です。先述のとおり、内発的動機により行動(業務)そのものが「自分のやりたいこと」になります。そのため集中力が持続しやすく、処理能力が向上します。
また、内発的動機により自発的に仕事へ取り組む姿勢が身につくと、社員自身が業務の進め方を見直し、より効率的な方法を模索するようになるでしょう。
処理能力の向上と作業効率化による生産性向上は、内発的動機づけがもたらす恩恵の一つといえます。
モチベーション維持・向上につながる
内発的動機づけは、モチベーションの維持・向上に大きく寄与します。興味や関心の高い業務に携わり、自己成長を目標に取り組むと、働くこと自体がモチベーションとなるためです。
一方で、外発的動機づけは外部からの報酬が失われるとモチベーションが下がりやすく、持続性に乏しいデメリットがあります。
新たな価値やアイデアの創出がしやすくなる
内発的動機は新たな価値やアイデアの創出を促進します。興味や意欲に基づいて業務に取り組む姿勢が、創造性を高めるためです。
また、自主的に仕事へ取り組む社員が増えることで活発な意見交換につながり、社員同士の相互作用によって新たな解決策や価値が生まれやすい企業風土が育まれます。結果として、企業成長に寄与するイノベーションが起こりやすくなります。
外発的動機づけは、直接的な生産性向上はもたらすものの、報酬という目標を超えて努力しようとするモチベーションにはつながりません。内面から生じる熱意にも乏しいため、プラスアルファの価値創出は困難でしょう。
内発的動機づけが抱える課題
内発的動機を適切に促進できれば、企業に好影響をもたらします。一方で、外発的動機づけよりコントロールが難しいデメリットがあります。
内発的動機づけが抱える主な課題は以下の3点です。
- 短期的な成果を得るのが難しい
- 個々人で異なるアプローチが必要となる
- 関心を失うとパフォーマンスが下がりやすい
各課題の詳細を解説します。
短期的な成果を得るのが難しい
内発的動機づけは外発的動機づけと比較すると、短期的な成果を得るのが難しい傾向があります。
報酬や称賛といった具体的な要素からなる外発的動機とは異なり、内発的動機は個人の価値観や興味、自己成長への欲求といった内面的な要素に基づいています。そのため、すぐに成果や利益として表面化しづらく、短期的な行動変化を引き出しにくいのです。
とくに、意欲や好奇心に乏しい社員は内発的動機となる対象がないため、動機づけが困難な場合があります。
上記の理由から、内発的動機づけに取り組む場合は、成果が出るまでに時間がかかることを理解しておかなければなりません。
個々人で異なるアプローチが必要となる
内発的動機は個人によって異なるため、それぞれに応じたアプローチが必要です。報酬や賞賛、叱責といった外発的動機づけは、多くの社員に対して一律の影響を与えますが、内発的動機は個人の興味や適性に大きく左右されます。
たとえば「プロジェクトの責任者」という役割が内発的動機となって意欲を高める社員もいれば、プレッシャーを感じてパフォーマンスが低下する社員もいるでしょう。社員一人ひとりの特性を正確に把握し、それぞれに適した動機づけを行うことが重要です。
関心を失うとパフォーマンスが下がりやすい
内発的動機は社員の内面にある意欲や関心に基づくものです。そのため、意欲や関心を失うと、モチベーションが急激に失われてしまいます。
例としては、自己成長を内発的動機としてスキル習得に積極的に取り組んでいた社員が、結婚や子どもの誕生をきっかけにワークライフバランスを重視するようになり、業務への意欲が低下してしまったケースが挙げられます。
内発的動機づけを支える3つの心理的欲求と満たす方法
内発的動機づけを高めるためには、人間の心理的欲求を理解し、それを満たすための働きかけをすることが重要です。内発的動機づけを高める3つの心理的欲求について理解していきましょう。
- 能力感(Competence)
- 関係性(Relatedness)
- 自主性(Autonomy)
この3つの要素がそろうことで内発的動機が完成し、意欲をもって業務に従事できます。各要素の特徴と満たす方法は以下のとおりです。
能力感(Competence)
能力感(Competence)とは、自分の能力を高めたり、技術を極めたりすることで自分の有能性を感じられる感覚です。
社員の能力についてポジティブなフィードバックを与えることで、社員の自己肯定感を上げ、能力感を高められます。また、適材適所の配置やスキル習得の支援により、社員の有能性を自覚させる取り組みも有効です。
関係性(Relatedness)
関係性(Relatedness)とは、他者とのつながりや信頼関係を感じられる感覚です。
チームの中で孤立していると感じると、動機づけが難しくなります。日常的な感謝の声かけやお互いの意見を尊重する風土作りにより、関係性の欲求を満たせます。
自主性(Autonomy)
自主性(Autonomy)とは、自分の行動を自分で決められる感覚です。
自主性は3つの基本的欲求のうち、とりわけ重要な要素です。「自ら行動を決定した」感覚は、心理的な満足感を大いに高めます。
他人に評価され、成果に応じて報酬を与えられると、本来の興味関心が失われ、内発的な動機づけが弱まってしまうことがあります。これが、アンダーマイニング効果と呼ばれる心理的メカニズムです。
内発的動機づけを促進するための取り組み
企業として社員の内発的動機づけを促進するためには、社員一人ひとりが自主性をもって積極的に業務に取り組めるようサポートすることが重要です。
具体的な取り組みとしては以下が挙げられます。
- 個々の適性を把握する
- キャリアデザインを支援する
- フィードバックの質を高める
- チャレンジしやすい風土を整える
- 労働環境を改善する
各取り組みの詳細や注意点を紹介します。
個々の適性を把握する
内発的動機づけを強化するためには、社員一人ひとりの適性を把握することが重要です。なぜなら、内発的動機づけは個別性が非常に大きく、一律の動機づけでは効果が表れない社員がいるためです。
個々の適性を把握し、興味・関心の対象や価値観、どのような環境・状況でパフォーマンスが上がるのかを分析することで、もっとも適した内発的動機を見極められるでしょう。
社員の適性や能力の把握は、適材適所の人材配置も可能とします。自身の能力を最大限に発揮できる環境に身を置くことで、能力感を得やすくなり、内発的動機づけが高まるでしょう。
具体的な方法としては、1on1による面談や適性検査が挙げられます。また、サーベイツールの利用により、社員のパフォーマンスやコンディションを可視化することも重要です。
キャリアデザインを支援する
キャリアデザインの支援も、内発的動機づけを強化するうえで有効な施策です。
キャリアの道筋を明確化することで、社員は自身の目標や組織における自分の役割を理解しやすくなります。また、自分のスキルやキャリアを自らの意志で発展させていくという感覚は自主性の醸成につながり、長期的なモチベーションの維持・向上にも寄与します。
まずは定期的な面談を通じて、キャリアデザインの支援を行いましょう。それに加えて、研修プログラムや資格取得支援を活用し、社員に自己成長の機会を提供することで、成長意欲を高められます。
フィードバックの質を高める
上司や指導者によるフィードバックの質を高めることで、内発的動機づけの強化が可能です。
内発的動機は自己の内面から生じるものですが、まったく評価されない環境では関係性の欲求が満たされず、労働意欲が低下してしまいます。
定期的にフィードバックを行い、よかった点や今後の課題を伝えることで、社員は「自分の努力が認められた」「自分の成長に期待してくれている」と実感でき、モチベーションが向上します。
チャレンジしやすい風土を整える
チャレンジを歓迎する風土づくりも、内発的動機づけの促進に役立ちます。
「努力次第で大きな仕事ができる」「創造性を評価してもらえる」といった期待感をもてる環境では、期待にこたえようとする意識が高まり、本来の能力を超えたパフォーマンスを発揮する可能性があります。
さらに、小さな成功体験の積み重ねは、社員の能力感を大きく育て、モチベーションを一気に引き上げる原動力にもなるでしょう。
年齢や立場に関係なく意見を発信しやすい職場づくりや、新しい価値の創出を積極的に評価する制度設計によって、社員が自ら挑戦できる風土が整います。
ただし、チャレンジには失敗もつきものです。失敗によって自己肯定感が損なわれないよう、社員の能力や成長段階を見極めたうえで、挑戦を適切に支援することが重要です。
加えて、失敗を受け入れる企業風土や、チャレンジを全員で支える仕組みづくりも、健全な挑戦文化を育てるうえで欠かせません。
職場環境を改善する
内発的動機づけを高めるためには、職場環境の改善が必要不可欠です。社員が心身ともに健康で、安心して働ける土台があるからこそ、自主性や労働意欲が育まれます。
過重労働や劣悪なオフィス環境、人間関係の悩みはモチベーションの低下や心身の健康を損なう要因となります。休職・離職のリスクも高まるため、まずは社員が安心して、快適に働ける環境づくりから着手することが重要です。
ワークライフバランスを重視して社員の心身の負担を減らす、社内の設備や空間を整える、信頼関係を築くための対策を講じるといった取り組みは、社員の意欲向上に直結します。
環境が整うことでエンゲージメントも高まり、社員が主体的に組織へ貢献しようとする姿勢が育まれていきます。
職場環境の改善方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
内発的動機づけのためには社員の適性把握が必要
社員の自主性や新たな価値の創出を促進する内発的動機づけは、生産性の向上や企業の持続的発展に欠かせない施策です。
しかし、報酬や賞賛、叱責といった外発的動機とは異なり、内発的動機は各社員の興味関心や適性に大きく左右されます。
そのため、同じような方法で動機づけを行っても、効果の出方には個人差が生じます。場合によっては、動機づけのアプローチが合わず、かえって意欲の低下を招くこともあるため、慎重に対応しなくてはなりません。
適切な動機づけをするためには、個々人に適した内発的動機を見極めるとともに、適切なサポートやフィードバックを行う必要があります。
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