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キャリア自律支援で社員の能動性とモチベーションを高める施策

働き方の多様化や就労期間の長期化に伴い、キャリアは単に「一つの企業での経歴」としてではなく、人生観や仕事観といった広い視点から捉えられるようになっています。

こうした背景のもと、個人が主体的にキャリアを築いていく「キャリア自律」の重要性が増してきました。企業にとっても、社員のキャリア形成を支援することは、自主性やモチベーションを向上させ、ひいては組織全体の成長を促すことにもつながります。

本記事では、キャリア自律が注目されている背景やメリット、企業が支援すべきポイントを解説します。

キャリア自律とは

キャリア自律とは、企業の指示や意向に依存せず、社員が自身の規律や意志に基づいて働き方や働く場所を主体的に選択し、必要なスキルや経験を自ら学びながらキャリアを構築していくことです。

キャリア自律は本来社員自身で進めるべきものですが、企業が適切に支援をすることで、主体性や意欲をさらに高められます。そのため、キャリア自律支援は今や重要な人事施策の一つといえるでしょう。

「自律」と「自立」の違い

キャリア自律の「自律」は「自立」とは異なる意味を持ちます。「自立」は、他者の力を借りずに自分の力で物事を成し遂げることで、外面的な自主性や独立性を指す言葉です。

一方の「自律」は、自身の内面にある規律や価値観に基づき、自分の感情や行動をコントロールすることを意味します。

キャリア自律は、自己の内面からキャリアを形成していく姿勢を表しているため、「自立」ではなく「自律」という言葉が用いられています。

従来の「キャリア開発論」との違い

キャリア自律は、従来の「キャリア開発論」とは考え方やアプローチ法が異なります。

従来のキャリア開発では、一つの企業や特定の分野において、実務や研修を通じてスキルを高め、組織のなかでキャリアを築くことを目的としていました。

一方、キャリア自律は企業や業種の枠にとらわれず、自分の意志や価値観を軸にキャリアを積み重ねる姿勢が重要視されています。

ライフスタイルや自己概念の変化に応じて、キャリアの方向性が変わったり、働く場所や働き方を見直したりするケースも少なくありません。

こうした点において、キャリア自律は単なる職務経歴ではなく、個人の生き方や働き方と密接につながっているものといえるでしょう。

キャリア自律が注目されている背景

キャリア自律が注目されている背景には、働き方や経営の在り方の変化があります。

とくに大きな影響を与えているのは以下の4点です。

  • 終身雇用・年功序列の見直し
  • 働き方や仕事観の多様化
  • 就労期間の長期化
  • 人材を活かす経営への転換

詳細を以下に紹介します。

終身雇用・年功序列の見直し

従来の日本では終身雇用・年功序列制度が慣習であり、キャリア形成は企業が担うものとされていました。企業は社員の勤続年数や能力に応じてポストを用意し、社員はそれに従うという関係性が自然なものだったのです。

しかし現在では、こうした慣習が薄れ、成果主義の導入が進んでいます。そのため、長く務めることが必ずしもキャリアアップにつながるとは限らなくなりました。

会社に依存しすぎることにより、倒産や解雇といった予期せぬ変化でキャリアが閉ざされてしまう危険性も無視できません。

だからこそ、漫然と働くのではなく、自律的に自分のキャリアを構築し、目的に応じて経験を積んでいく姿勢が求められています。

働き方や仕事観の多様化

近年では、派遣や業務委託、副業、時短勤務、テレワークなど、働き方の選択肢が広がっています。

育児や介護といったライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるようになり、従来の働き方にとらわれないキャリアデザインが可能となりました。

同時に、仕事に対する価値観も多様化しています。ワークライフバランスを重視する考え方や、職場を単なる労働の場ではなく「自己成長の場」としてとらえる姿勢が広がっており、社員の副業を後押しする企業も増えています。

外部での活動を通じて得た経験やスキルが、本業にもプラスに働くという認識が浸透してきたためです。

働き方・仕事観の選択肢が増えるなかで、自分に合ったキャリアパスを描くには、自身の価値観や優先順位を明確にし、それに基づいて意思決定を行う「キャリア自律」がますます重要となっています。

就労期間の長期化

「人生100年時代」といわれるように、日本では長寿化が進んでおり、退職後も働き続けたいと考える人が増えています。

年金制度への不安に加え、働くことを生きがいとする価値観も広がっており、セカンドキャリアの場をどう確保するかが大きな課題です。

こうした課題を解決するためには、現役時代から将来を見据え、自分自身の価値観やライフプランに基づいたキャリアを設計しておく必要があります。

自主的なキャリア決定により、定年後の再雇用や転職においても、自分の強みや経験を活かした選択がしやすくなります。

人材を活かす経営への転換

経営の在り方の変化も、キャリア自律の重要性を高める要因の一つです。

現在では、社員のスキルや意欲を企業の資産ととらえる「人的資本経営」や、職務に必要なスキル・経験をもつ人材を採用する「ジョブ型雇用」が広がりつつあります。

このように、社員を単なる労働力ではなく、企業の「価値」とする考え方が主流になるなか、個々人が自身のキャリアを主体的に管理し、学び続けることの意義が増しています。

キャリア自律は人材の「価値」を高めるために有用です。キャリア自律により、必要なスキルや経験を主体的に習得する姿勢は、社員自身の価値や評価を上げ、社内外を問わず就労の選択肢を広げるのに役立ちます。

キャリア自律支援のメリット

キャリア自律を進めることで、社員は自身の市場価値を高め、生き方の選択肢を広げられます。また、企業にとっても社員のキャリア自律を支援することは、持続的成長において大きなメリットがあります。

キャリア自律支援が企業にもたらす主なメリットを紹介します。

生産性が向上する

キャリア自律が進むことで、社員は自身の目標や価値観に基づいて主体的に業務に取り組むようになります。

その結果、集中力やモチベーションが持続しやすくなり、仕事の質やスピードの向上が期待できるでしょう。

また、社員が自らのスキルや適性を正しく把握していれば、それを踏まえた人材配置が可能となり「適材適所」を実現できます。こうした環境が整えば、生産性の向上が見込まれます。

組織のイノベーション促進につながる

社員のチャレンジ精神を高め、イノベーション促進をもたらす点もキャリア自律のメリットです。

キャリアを自分自身で考えることにより、業務に対する責任感が芽生え、新しいスキルや経験を積極的に習得するようになります。

その結果、新たなチャレンジや改善提案が活発となり、組織全体にポジティブな変化をもたらします。社員同士で積極的に意見を交換することで、より価値の高いアイデアが創出されるでしょう。

こうした積み重ねが組織のイノベーションを促進し、持続的な成長へとつながっていきます。

離職率が下がる

社員の離職を防ぐためには、モチベーションやエンゲージメントを高めることが不可欠です。その意味でも、キャリア自律支援は非常に有用な施策となります。

自主的にキャリアを構築することで、業務の目的や自分の役割が明確となり、より前向きに業務に取り組めるようになるでしょう。

また、自己の能力開発を後押ししてくれる企業に対して、信頼や愛着が芽生えることから、エンゲージメントの向上にもつながります。

こうした取り組みの結果として定着率が上がり、優秀な人材の確保を実現できます。

キャリア自律を支援するために企業が行うべき施策

企業がキャリア自律を支援をすることは、社員の意欲や企業への愛着を高め、定着率の向上やパフォーマンスの最大化に結びつきます。

キャリア自律を支援するためには以下の取り組みが推奨されます。

  • 社員の適性と価値観を可視化する
  • キャリアデザインを支援する
  • 視野を広げる機会を提供する
  • 管理職の意識改革を促す
  • 評価基準を明確化する

具体的にどのような取り組みをすればよいのか、とくに重要な施策を以下に紹介します。

社員の適性と価値観を可視化する

個々の社員に合ったキャリア構築支援をするためには、社員の適性や価値観を把握することが重要です。

1on1による会話や適性検査を通じて、社員を理解するところから着手しましょう。

サーベイツールの利用も有効です。社員の性格やパフォーマンスを一元的に可視化でき、客観的、定量的な評価が可能となります。

キャリアデザインを支援する

キャリア自律を浸透させるためには、キャリアに対する自覚を促す必要があります。キャリア研修やキャリアカウンセリングの実施を通じて、社員が自己の価値観や将来像について考える機会を提供しましょう。

また、キャリアデザインは一度で完結するものではありません。考え方やライフスタイルの変化により、柔軟に見直す必要があります。

定期的に面談や研修を行い、目標の達成状況やキャリアプランを確認すると、社員のキャリア自律をより確かなものにできるでしょう。

視野を広げる機会を提供する

視野を広げる機会を提供することも、重要なキャリア支援策の一つです。一つの部署で限られた業務にばかり従事していると、視野が狭くなり、自身の適性や目標を定めづらくなります。

社内外を問わず、さまざまな働き方ができる制度を設け、社員自身が主体的に考えられる環境を整えることが重要です。

とくに効果的な取り組みを、社内・社外の活動場所別に以下の表にまとめました。

活動場所活動内容詳細
社内活動異動部署や職務の転換
社内副業所属する部署以外の仕事やプロジェクトに取り組める制度
社内公募制度社員を対象に、特定の部署やプロジェクトへ異動する人材の募集をかける制度
社内FA制度キャリアやスキルを希望部署にアピールし、自らの意思で異動を実現する制度
ジョブローテーション社員のスキル向上や視野拡大を目的とした定期的な異動制度
ピアレビュー同僚同士が互いの業務内容や成果、行動についてフィードバックし合う制度
社外活動副業本業以外で収入を得る仕事
ボランティア無償の社会奉仕活動
社外勉強会・交流会・セミナー社外で行われ、他社・異業種の人と関われる勉強会
リカレント教育就業後に大学などの教育機関や社会人講座などで学びなおすこと

社外活動は他社や異業種の人と関わることで、新たな知見を得られる点がメリットです。自社に足りない要素や課題を洗い出せるため、組織全体の革新につながる可能性もあります。

一方で、外部と交流をもつことによりキャリアの選択肢が広がり、転職してしまうリスクも無視できません。キャリア自律を支援しつつ、定着率を高めるためには、エンゲージメントを構築する取り組みに注力する必要があります。

管理職の意識改革を促す

キャリア自律を促進するためには、現場での継続的なサポートが欠かせません。管理職がキャリア自律の重要性を理解し、部下を支援する姿勢をもつことが求められます。

管理職向けのキャリア研修を実施し、キャリア自律の意義や、部下への指導法を学んでもらうと、部下のキャリア自律を適切に支援できるようになります。

また、管理職自身がキャリア自律を実践することも重要です。自己のキャリアを棚卸し、目的や将来像を明確にすることで、面談やアドバイスに説得力が生まれ、部下との信頼関係構築や支援の精度向上に役立ちます。

評価基準を明確化する

自己成長に積極的に取り組んだ社員を公正に評価する仕組みづくりも、キャリア自律を支援する有効な手段です。

自身の立てた目標や価値観にもとづいて自主的に活動した結果を正当に評価し、昇給・昇進などの報酬を与えることで、キャリア自律の意識を高められます。

成果だけではなく、行動やプロセスも評価項目に加えると、社員が失敗を恐れずにチャレンジできるようになります。

キャリア自律支援の事例

最後に、キャリア自律支援に取り組む企業の事例をご紹介します。

富士通株式会社

日本を代表する電機メーカーである富士通株式会社では「全ての社員が魅力的な仕事に挑戦し、多様・多才な人々とグローバルに協働しながら、常に学び、成長し続けている」ことを目標とし、キャリア自律のためにさまざまな支援を行っています。

特徴的な施策の一つに「キャリアカフェ」があります。これは同世代の社員が集まり、仕事やキャリアをテーマに話し合うことで、今後のキャリアや行動について考えるヒントを得る場として提供されています。2022年度には、年間8,296人が参加しました。

社員の一人は同世代との交流をきっかけに社内インターンに応募し、未経験のプロジェクトに参画。新しい取り組みについて考えるなかで、自身のキャリアの方向性をより深く考えられるようになったと語っています。

また、1on1の実施やオンデマンド教育により、継続的にキャリア自律を支援する試みもなされています。これらの定期的な支援は、社員のモチベーション維持やエンゲージメント向上にも寄与し、組織全体の活性化につながっているようです。

株式会社デンソー

株式会社デンソーは、トヨタグループに属する自動車部品メーカーです。転換期を迎える自動車業界において「キャリアは企業が用意するものではなく、社員自身が主体的に考えるもの」と位置づけ、さまざまなキャリア自律支援策を展開しています。

たとえば、上司と部下が共にキャリアを考える制度や、キャリア相談室、自己学習やリスキリングを支援する制度、さらには社内外で異なる業務に挑戦できる制度など、多岐にわたる支援を実施しています。

加えて、各施策の活用状況をサーベイなどのデータを通じて可視化。上司や研修受講者に対してフィードバックを行っています。

これにより、支援制度をただ行うだけではなく、その結果を施策の改善や社員の意識向上につなげる仕組みが構築されています。

株式会社リコー

株式会社リコーは、プリンタやファクシミリといった事務機器・オフィス機器を中心に事業を展開する電気機器メーカーです。

世の中にイノベーションをもたらす製品やサービスを提供するという理念のもと、社員のチャレンジ精神を高めるためのキャリア自律支援策を行っています。

企業が求める人物像を「ビジネスリーダー」「スペシャリスト」などの7つのタイプに分類し、各人材タイプを輩出・育成するための制度や仕組みを構築しています。

その一例が「PMコンピテンシー認定制度(PMC)」です。社内基準に基づきプロジェクトマネジメントの能力を認定する制度で、認定者には昇進面でのインセンティブが付与され、次のキャリアステップを自らの意志で切り開くことが可能となります。

さらに、育児や介護などさまざまな事情を抱える社員が、最大限にパフォーマンスを発揮できるよう、制度や企業風土の整備にも注力しています。

育児休暇制度および時短勤務制度は1990年から導入しており、社内イントラネットでは「両立支援のしおり」サイトを開設。スムーズに復職できるようサポートしています。

三菱総合研究所

三菱総合研究所は、三菱グループに属する総合シンクタンクです。

医療・介護・福祉、地域再生、環境・エネルギー、防災・安全、宇宙科学・先端技術、情報通信など、幅広い分野の人材を登用し、個々の能力・適性・志向に応じたキャリア形成を支援しています。

キャリア支援の中核を成すのが「FLAP」です。FLAPとは「Find(自分や仕事を知る)」「Learn(学ぶ)」「Act(動く[異動・配置])」「Perform(活躍する)」という4つのアクションを連動させ、社員一人ひとりのキャリア育成を体系的に促進する仕組みです。

FLAPのサイクルを実践するために、多彩な面談や教育研修を実施するほか、スキルチェックやパルスサーベイなどのツールを活用し、社員の能力や状態を一元的に把握する取り組みも行われています。

また、2023年3月にはアスリートのキャリア支援を目的とした「アスリートFLAP支援(AFS)事業」を開始。社内で培ったキャリア支援のノウハウを活かし、ユニークなキャリアをもつアスリートに新たな活躍の場を提供する試みにも取り組んでいます。

株式会社ADEKA

化学素材メーカーであるADEKA(旧社名:旭電化工業株式会社)では「人材は『人財』」という基本思想のもと、人財育成の理念を「信頼と改革」と定め、キャリア支援に取り組んでいます。

代表的な施策の一つが、多種多様な研修の実施です。全階層を対象としたコンプライアンス研修や語学研修をはじめ「新入社員研修」「新任管理職研修」「メンター研修」など、階層・年齢・役職に応じたきめ細やかなプログラムが用意されています。

キャリア研修の目的も階層によって異なり、若手社員には仕事の社会的意義や得られるスキル、将来のキャリアについて理解を深める機会を、50代の社員には定年後を見据えたキャリアを考える場として提供しています。

また、部署を超えた同世代の社員同士の交流の場となることも、階層別研修の大きなメリットの一つです。

さらに、研修で得た成果を実務に活かす仕組みとして、キャリア面談やキャリアアピールシートの導入に加え、人事制度の変革にも取り組んでいます。

まとめ

働き方や価値観が大きく変化している現代において、社員自身が自分の人生や仕事観を明確にし、キャリア自律を目指すことの重要性が増しています。

企業としても、社員のキャリア自律支援により生産性の向上や離職率の低下につながり、さらなる発展が望めます。

社員のキャリア育成をサポートし、能力を最大限に発揮できる環境を整えるためには、社員の適性や価値観を理解し、それに合わせて教育機会の提供や部署の配置を行うことが重要です。

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